研究課題/領域番号 |
25450092
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中村 幸治 筑波大学, 生命環境系, 教授 (40212097)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 枯草菌 / ファージ不稔感染 / 膜たんぱく質 / バイオフィルム |
研究実績の概要 |
多くの真正細菌のゲノム中にはプロファージ領域があり、ファージ由来の遺伝子が存在しているが、それらの遺伝子の機能や宿主に対する影響については、不明な点が多い。枯草菌Marburg株に溶原化しているSPβ上の遺伝子nonAは、病原ファージであるSP10の感染により、その中期遺伝子産物であるシグマ用因子によって発現誘導された。さらに、NonAタンパク質をファージ非感染時に強制的に発現させた場合、枯草菌の生育を強く抑制したことから、ファージに特有の現象を抑制するのではなく、枯草菌の生育そのものを阻害してNonAによる不稔感染が成立していることが明らかとなった。枯草菌だけではなく、大腸菌やウェルシュ菌、球菌等でのNonAの発現を行った結果、程度の違いはあったが、生育を阻害した。従って、NonAタンパク質の細胞毒性は、グラム陽性陰性を問わず、広いことが明らかとなった。しかし、生育阻害状態下でも、菌体の形態には大きな変化はなく、膜の損傷も観察されなかった。 ファージ非感染下でのNonA発現誘導株から、NonAを発現していても生育できるNonA発現許容株を取得した。このNonA発現許容株はNonAに依存するSP10ファージ抵抗性を失っていた。このことから、NonAによる生育阻害はファージ抵抗性と関連していることが示唆された。次世代シーケンサーを用いてNonA発現許容株の変異部位の同定を試みた結果、nonA遺伝子上に変異が見られたもの以外に、他の遺伝子座位に変異が生じていたものが、5株取得できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請した研究課題の項目について、着手し、成果を出している。2つの国際学会での発表も行っており、国内学会も3回行い、情報発信を行っている。さらに、当初の研究課題になかった“NonA発現許容株”の取得にも成功しており、平成27年度の展開も行える状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、ファージ不稔感染機構に関与することが明らかとなったNonAタンパク質について、生化学的、進化系統学的な解析を行う。これまでの解析から、 次に、NonAの強制発現条件下でも生育できる「発現寛容変異株」の取得を行う。NonAのプロモータに変異が生じ、発現しなくなることが予想されるが、さらに、広く、それ以外の遺伝子座に変異をもつ株を取得する。得られた変異株について、次世代シークエンサーなどを使用し、原因遺伝子を同定し、解析を行う。さらに、枯草菌Marburg株に溶原化しているSPβだけではなく、環境中から単離された枯草菌株に溶原化しているSPβ類縁ファージにも同様のSP10ファージ防御機構が存在するか、あるいは、SPβ上の遺伝子について、ファージ感染の有無により、遺伝子発現が変化するものをトランスクリプトーム解析等で調べる。 以上の研究項目から得られる結果を統合し、ファージ不稔感染の分子生物学的なモデルを構築し、遺伝子の水平伝播におけるファージの重要性について概念を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、nonA遺伝子の発現解析を詳細に行うため、プローブとしてDNAやRNAの合成を計画していた。特に、RNA合成は、受託で、非常に高額なため、予算建てをした。しかし、プロモータ解析やアレイ解析の結果を吟味することにより、RNAプローブを用いなくても解析が可能となった。また、NonAタンパク質の機能解析を実施するため、抗体の作成を計画していた。しかし、欠失変異体の解析も行う必要が生じたため、C末端にFLAGタグやHisタグを付加した変異体を作成し、これらの抗体を用いることにより、タンパク質レベルでの解析が可能となり、個別の変異体に対する抗体を作成する必要がなくなった。さらに、追加の実験により、「NonA発現受容株」が取得でき、これらの解析を中心に行ったため、予定使用額よりも、低い予算での実施となった。
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次年度使用額の使用計画 |
「NonA発現受容株」は、NonAタンパク質の機能解明には、重要であり、その変異個所の同定のため、次世代シークエンサーを用いる計画である。現在、5株を取得しているため、その解析に使用する予定である。さらに、NonAタンパク質の水処理分野での使用が有望視され、特許出願を計画しているがそのため、NonAを高発現して、精製タンパク質の取得を行う計画を立てている。
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