研究課題/領域番号 |
25450097
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
鈴木 一史 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (00444183)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 遺伝子発現 / small RNA / 応用微生物学 / キチナーゼ |
研究実績の概要 |
Small RNAによって細菌のキチン分解利用系(キチン分解酵素群の生産、分解産物の取り込み、分解産物の代謝)が連動して制御される新たな遺伝子発現調節機構の解明が本研究の目的である。今回、以下の研究結果を得ることが出来た。 Small RNAであるChiX (MicM)のchiP (ybfM) 及びchiR mRNAとの塩基対形成に関与すると考えられる領域のうち、1塩基の置換をchiX遺伝子に導入して変異ChiXを細胞内で発現させた。その結果、ChiXのターゲットであるchiP、chiRの発現抑制が解除され、キチナーゼ及びキトビアーゼが生産された。よって、ChiXはchiP及びchiR mRNAに結合して制御していると考えられた。chiX欠損株を様々な炭素源を用いて培養した結果、本来ならばキチナーゼが誘導されない炭素源であるグルコースやグリセロールにおいてもキチナーゼ遺伝子の転写活性化因子をコードするchiRが発現し、キチナーゼが誘導されることが明らかになった。一方、野生株においてChiXは炭素源にかかわらず常に発現していた。キチナーゼはキトビオースを炭素源とした時に誘導されるが、その際にはChiXの一方のターゲットであるchiP mRNAが大量に転写されていた。よって、キチナーゼの非誘導時にはChiXが常にchiRの発現を抑制しているが、誘導時にはChiXの一方のターゲットであるchiP mRNAが大量に存在し、ChiXはchiP mRNAに結合することでchiRの抑制が解除され、キチナーゼが発現するものと考えられた。このchiPの発現制御メカニズムを解析するため、chbオペロンの転写因子をコードするchbRの破壊株を構築することに成功し、相補性試験を含めて解析を行っている。また、ChiPは比較的長鎖のキチンオリゴ糖の取り組みに必要なキトポリンであることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は4つの研究項目を掲げ、同時並行で研究を行っている。項目間で多少の進展速度の違いはあるが、ほぼ当初の計画通りに研究は進行している。 1の項目(ChiXのchiP 5’UTR及びchiR 5’UTRへの結合と発現調節機構の解明)では、得られたchiX欠損株や新たに構築した変異ChiXの解析から、ChiXがchiPとchiRを制御するメカニズムの重要な情報を得ることができた。また、RNAシャペロンHfqをコードする遺伝子の破壊株構築にも着手している。2の項目(chiP発現調節機構及びchiPQ-ctbオペロンの機能)においてもchbR遺伝子欠損株構築に成功し、また、ChiPの基本的な機能を明らかにすることが出来た。3の項目(ChiRによるchiA、chiB、chiC、cbpの発現メカニズム)では、2D-DIGEにより野生株とchiR欠損株の差が示され、ChiRに調節されていると考えられる複数のタンパク質の存在を確認することができた。4の項目(真のキチナーゼ誘導物質・誘導機構の解明)は2の項目に関連することになり、今回はchbR遺伝子欠損株構築を優先させた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も以下の4つの研究項目を同時並行で進める。 1.ChiXのchiP 5’UTR及びchiR 5’UTRへの結合と発現制御機構の解明:ChiXとchiP 5’UTR及びchiR 5’UTRの相補配列のうち、ChiXへの変異導入は終了している。今後、chiP 5’UTR及びchiR 5’UTRへの変異導入を行い、まずはin vivoでの影響を確認し、さらに、RNA間相互作用による安定性の変化を調べるため、ChiX, chiP mRNA, chiR mRNAの半減期を調べる。2.chiP発現調節機構及びchiPQ-ctbオペロンの機能:chbオペロンの転写調節因子ChbRはリン酸化キトビオースと結合して活性型になると考えられている。得られたchbR破壊株におけるchiPの発現を調べるとともに、chiRやchiX発現への影響を調べる。3.ChiRによるchiA、chiB、chiC、cbpの発現メカニズム: 2D-DIGE解析によって得られたタンパク質を同定し、それらの遺伝子のクローン化及び遺伝子破壊株の構築を行い、全てのキチナーゼ及びCBP21遺伝子の発現への影響を調べる。4.真のキチナーゼ誘導物質・誘導機構の解明:manXYにコードされるPTSによってもGlcNAcは取り込まれると考えられる。また、キトビオースはPTSであるChbCによって取り込まれ、リン酸化された後に脱アセチル化されていると考えられる。そこで、chbR破壊株の解析結果も考慮し、これらに関与する遺伝子の破壊株を構築してキチナーゼ発現の影響を調べる。 以上の研究から、キチン分解産物の取り込みからchiPQ-ctbの発現、ChiXの結合、chiRの発現を経て、キチナーゼ及びCBP21が生産されるまでのキチン分解利用系の制御機構を明らかにする。
|