研究課題/領域番号 |
25450099
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
黒田 浩一 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30432339)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有機溶媒耐性 / 転写因子 / ABCトランスポーター / 細胞壁タンパク質 / パン酵母 |
研究実績の概要 |
微生物を用いて高効率な疎水性物質生産を行うため、有機溶媒耐性付与が重要な技術課題である。連続培養中に得られた有機溶媒耐性酵母KK-211株を基に、申請者はトランスクリプトーム解析により転写因子Pdr1pの1アミノ酸変異が重要であることを発見してきた。本研究では有機溶媒対酵母において、変異型Pdr1pにより制御されている遺伝子だけだなく、Pdr1pの認識配列であるPleiotropic Drug Response Element(PDRE)を持たないにもかかわらず転写レベルの上昇した遺伝子群の中から、実際に耐性に関わるものを同定するとともに、耐性を示す有機溶媒の種類を調べることによって耐性機構の解明を試みる。また、プロモーター中のPDREへの他の転写因子の作用、PDRE配列のゆらぎ、プロモーター中での位置や数について調べる。これにより、変異Pdr1pによる転写活性化の分子機構を解明する。 申請者らが単離した有機溶媒耐性酵母KK-211株を解析した結果、転写因子Pdr1pの1アミノ酸変異(R821S)が有機溶媒耐性の原因であることを明らかにしてきた。Pdr1p(WT)では有機溶媒に応答して下流の有機溶媒耐性に関する遺伝子の転写が活性化されるのに対して、Pdr1p(R821S)では下流遺伝子の転写が常時活性化されていることが示されている。Pdr1pの結合配列はSaccharomyces cerevisiaeのゲノム中に200以上存在するが、実際にPdr1p(R821S)に転写誘導されるのは10%以下である。そこで本研究ではPdr1pと一部機能が重複するPdr3pについて着目することで、酵母有機溶媒耐性機構の更なる解明に迫った。PDR経路の転写因子Pdr1pとPdr3pは遺伝子重複により生じた相同遺伝子で、多剤耐性では重複した機能を持つと考えられてきた。しかし今回、有機溶媒ストレス応答にはPdr3pは関わるもののPdr1pは関与しないことを明らかにした。さらに、欠損株を用いた実験で有機溶媒ストレスのシグナルはミトコンドリアを介してPdr3pに伝達されることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで多剤耐性において機能が重複すると考えられていたPdr1pとPdr3pについて、野生株で有機溶媒ストレス応答における両者の役割が異なることを明らかにした。さらに有機溶媒ストレスシグナルはミトコンドリアを介してPdr3pに伝達されることも判明した。以上のように有機溶媒ストレス応答機構に関する新たな知見を得ることができたため、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
転写因子Pdr1pはプロモーター中のPDRE配列を認識して転写制御を行っていることが知られているが、有機溶媒耐性に関わるPdr1p(R821S)変異体において、実際にPdr1p(R821S)によって転写誘導される遺伝子はPDREをもつ遺伝子のうち、わずか10%以下と少なく転写誘導レベルも遺伝子によって異なる。したがって、他の転写因子の作用、PDRE配列のゆらぎ、プロモーター中でのPDREの数と位置など、何らかの選択機構の存在が考えられる。そこで、Pdr1p(R821S)の制御対象となる遺伝子がどのように識別・選択されているのかについて研究を推進していく予定である。
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