申請者は、連続培養中に得られた有機溶媒耐性酵母KK-211株を基にトランスクリプトーム解析を行い、転写因子Pdr1pの1アミノ酸変異が重要であることを発見してきた。本研究では有機溶媒耐性酵母において、変異型Pdr1pにより制御されている遺伝子だけでなく、Pdr1pの認識配列であるPleiotropic Drug Response Element (PDRE)を持たないにも関わらず転写レベルの上昇した遺伝子群の中から、実際に耐性に関わるものを同定するとともに、耐性を示す有機溶媒の種類を調べることによって有機溶媒耐性機構の解明を試みる。また、プロモーター中のPDREへの他の転写因子の作用、PDRE配列のゆらぎ、プロモーター中での位置や数について調べる。これにより、変異Pdr1pによる転写活性化の分子機構を解明する。 有機溶媒耐性酵母KK-211株ではABCトランスポーターや各種細胞表層タンパク質をコードする遺伝子の転写誘導が見られ、その転写制御にPdr1pの1アミノ酸変異(R821S)が重要であることをこれまでに発見してきたが、転写誘導された細胞膜、細胞壁タンパク質群の中で有機溶媒耐性を与える直接的原因となるタンパク質を同定することができ、親水性、疎水性という有機溶媒の性質によって関与するものが異なることを明らかにした。 また、Pdr1p(WT)では有機溶媒に応答して下流の有機溶媒耐性に関与する遺伝子の転写が活性化されるのに対して、Pdr1p(R821S)では下流遺伝子の転写が常時活性化されている。Pdr1pの相同遺伝子であり一部機能が重複するPdr3pについても着目し、有機溶媒ストレスに対するシグナル伝達について調べたところ、有機溶媒ストレス応答にはPdr3pが関与していることを明らかにした。さらに有機溶媒ストレスのシグナルはミトコンドリアを介してPdr3pに伝達されるという機構を提唱した。また、Pdr1pにおいてR821S以外のアミノ酸変異を追加することで耐性を強化できる可能性を見出した。
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