研究課題
本研究では、酵母に増殖阻害を引き起こす青枯病菌エフェクター (Ralsotnia Effector inhibiting Yeast growth 4) REY4について酵母発現系を用いて解析を行っている。昨年度、REY4がグルタチオンを特異的に分解するγ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ(γ-GCT)活性を有することを明らかにし、REY4の活性化には真核生物由来の活性化因子が必要であることを明らかにした。本年度は、酵母タンパク質からREY4の宿主由来活性化因子の精製を試みた。酵母菌体10gからタンパク質を抽出し、大腸菌で精製した不活性なREY4の活性化を指標として、各種カラムクロマトグラフィーによりREY4活性化因子を精製した。精製したタンパク質は、Tricine-SDS-PAGEにより分離し、銀染色により検出した。活性化因子を含む画分に約12kDaのバンドが特異的に検出されていた。このバンドを切り出し、トリプシン消化・質量分析により同定することでREY4活性化因子を同定した。活性化因子は、原核生物から真核生物にまで広くそのホモログが存在するが、真核生物型の活性化因子だけが、REY4のγ-GCT活性を活性化することができなかった。また、REY4欠損青枯病菌をナスの葉に感染させることにより感染部位の葉ではグルタチオンが有意に低下することを見出した。これよりREY4は、宿主細胞内に注入されることで宿主内活性化因子により活性化され、そのγ-GCT活性を活性化することで、宿主細胞内のグルタチオンを急激に低下させることができることを明らかにした。また、別の青枯病菌エフェクターREY1については、膜への局在化と酵母増殖阻害に機能するドメインが互いに独立して分子内に存在することを明らかにし、膜への局在化については、必須のアミノ酸を幾つか同定した。
1: 当初の計画以上に進展している
REY4については、当初予定したいた実験については全て完了し、論文投稿可能なデータを既に得て、論文を作成中である。病原菌のエフェクター自身が、病原菌と宿主を見分けるという病原性発現における極めて重要なメカニズムを分子レベルで明らかにすることができた。また、REY4は、活性化因子を特異的に認識することで活性化することから活性化因子自身の酵素活性を指標として定量法にも応用できる可能性が出てきた。ヒトにおいて活性化因子の相同分子は、膵臓がんや肺がんで血中濃度が上昇することが知られており、REY4の活性化を用いることでガンの早期発見に寄与できる診断薬の開発が可能であると考えられる。本研究成果については、既に特許を申請している。REY1についても、分子内の機能ドメインを同定することができたことより、今後はREY4同様に標的を明らかにすることが可能であると考えられる。
REY4については、活性化因子を明らかにすることができたが、如何にしてREY4が活性化因子により活性化されるのかについては全く明らかになっていない。そこで、REY4と活性化因子を大腸菌で大量に発現させ、発現させたそれぞれのタンパク質を混合し、活性化状態にした後に結晶を作製し、得られた結晶を基に構造解析を行う。また、同時に活性化していないREY4についても結晶構造を明らかにし、これにより活性状態と不活性状態の構造を比較することで、活性化のメカニズムを分子レベルで明らかにする。REY1については、昨年度、マルチコピーサプレッサースクリーニングにより標的因子の同定を試みたが、マルチコピーサプレッサーを得ることができなかった。昨年度の研究によりREY1は、宿主内キナーゼにより分子内の自己抑制領域がリン酸化されることで活性化する可能性を見出したので、今後は活性化に関わるキナーゼの同定を試みる予定である。具体的には、トランスポゾンによりランダムに染色体上の遺伝子が破壊されたライブラリーを用いて、REY1発現に対して耐性となるサプレッサーの取得を試みる。これによりREY1の活性化に関わる因子やREY1の標的と遺伝学的に相互作用する因子の同定が可能であると考えられる。また、REY1については、青枯病菌の非宿主であるタバコ等については、過敏感反応を引き起こすことが知られている。酵母発現系で明らかとなったREY1の機能ドメインが過敏感反応の発現と相関性があるか否かをアグロバクテリウム発現系を用いてタバコ葉に感染させることで確認する。
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