研究課題
前年度は、麦麹造りにおける白麹菌の遺伝子発現情報をDNAマイクロアレイにより取得して、製麹過程でクエン酸生産を誘導(40度から30度への温度低下)した際に顕著に発現変動する推定転写制御因子遺伝子(発現上昇:2遺伝子、発現減少:5遺伝子)を同定した。また、これらの遺伝子破壊株の構築をはじめた。本年度は、昨年度に破壊できなかった残りの遺伝子破壊株を取得した。また、これらの中でクエン酸生産誘導時に発現が上昇した2遺伝子(nosAとrosA)の機能解析を行った。NosAとRosAは、モデル糸状菌Aspergillus nidulansにおいて有性生殖に関与することが報告されていたが、白麹菌には有性世代は見出されておらず、これらの推定転写制御因子が白麹菌においてどのような生理機能をもつのかについては報告がなかった。そこで、nosAとrosAの単独遺伝子破壊株と2重遺伝子破壊株を構築した。nosAとrosAは温度変化時に発現変動する遺伝子として同定されたが、各遺伝子破壊株のM平板培地での生育(経時的なコロニー径の増大)は、25、30、37、42度の異なる温度において野生株と同様であった。一方、分生子形成能については、rosA破壊株は野生株と同様の表現型を示したが、nosA破壊株とnosA rosA二重破壊株は、分生子形成能が顕著に低下(nosA rosA二重破壊株は、野生株の約20%)した。次に、各遺伝子破壊株を宿主として、Tet-OnプロモーターによりNosA-GFPおよびRosA-GFPを発現する相補株を構築し、蛍光顕微鏡により局在を観察した。その結果、NosA-GFPとRosA-GFPは核に局在することが示唆された。したがって、NosAとRosAは白麹菌において分生子形成に関わる遺伝子発現制御に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
解析対象遺伝子の選定(前年度計画)から、各解析対象の機能解析(本年度計画)に予定通り進めているため、"おおむね順調にすすんでいる"とした。
解析対象の遺伝子破壊株の有機酸生産能を、液体培養と固体培養において評価する。また、温度感受性、分生子形成能などの諸性質の解析を継続する。さらに、各推定転写制御因子がどの遺伝子を発現制御しているのかをRNA-seqとリアルタイムRT-PCRにより解析する。
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Appl Environ Microbiol
巻: 81 ページ: 1353-1363
10.1128/AEM.03483-14