研究課題/領域番号 |
25450115
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
小田 忍 金沢工業大学, バイオ・化学部, 教授 (00503963)
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研究分担者 |
佐野 元昭 金沢工業大学, バイオ・化学部, 准教授 (80410299)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 糸状菌二次代謝物 / 生物活性二次代謝物 / 菌株スクリーニング / 抗生物質 / スタチン系化合物 / 抽出発酵 / 界面バイオリアクター |
研究実績の概要 |
伝統的な液体培養、抽出培養(水/有機溶媒二相系培養法)、固/液界面培養(寒天平板/有機溶媒界面培養)、液/液界面培養(液体培地/有機溶媒界面培養)間で、各種標準カビによって生産される二次代謝物のプロファイルを網羅的に比較した。その結果、多数の株の液/液界面培養系の有機層中に特異な疎水性二次代謝物が生産されることが確認でき、本培養系による二次代謝物の特異的生産が、既報のPenicillium multicolor以外の株でも可能であることが検証できた。なお、P. multicolorの液/液界面培養系で抗菌・抗ガン・抗HIV活性化合物として注目されているazaphilone系化合物が特異的かつ大量に生産されることも確認でき、大量生産を図るべき新たな標的天然物を想定することができた。 次に、Aspergillus terreusによるlovastatin(cholesterol低下薬原料)生産系について、液/液界面培養系で通常の液体培養系に比べて有意に高いlovastatinの生産が確認された。本株のlovastatin生合成関連遺伝子群の発現を上記の4種の培養系の間で比較したところ、液/液界面培養系でlovastatin生産関連遺伝子群が大量に発現していることが明らかとなった。このことより、筆者らが開発中の抽出液面固定化システムでは、有機層による二次代謝物の抽出効果(生産物阻害の回避)、効率的な酸素供給、菌形態のマット状管理、カタボライト抑制の解除等の長所に加えて、二次代謝物生産関連酵素群の大量発現も達成されていることが示唆された。 なお、抽出液面固定化システム(液/液界面培養系)による特異な二次代謝物プロファイルと、それの抗生物質生産カビの新規な高感度・高速スクリーニングシステムへの応用について、The Journal of Antibioticsに論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の中心的な課題である「多様な属種についての二次代謝物プロファイルの比較」に関しては、50株以上に及ぶ標準株について、伝統的な液体培養法、抽出培養法(水/有機溶媒二相系培養法)、固/液界面培養法(寒天/有機溶媒界面培養法)、液/液界面培養法(液体培地/有機溶媒界面培養法)の4種の培養系の間で、生産されてくる二次代謝物の網羅的な解析並びに比較を行い、学術的にも産業的にも価値ある成果を得ることができた。コレステロール低下薬や抗生物質、抗真菌性香料原料等の産業的に重要な化合物群を生産する株について、特に液/液界面培養時における生化学的並びに形態学的な知見を、多々集積することができた。 一方、コレステロール低下薬(スタチン系化合物)生産株について、上記の4種の培養系の間で、発酵能と関連遺伝子群の発現量の比較を行なった。その結果、液/液界面培養系で有意に高いlovastatinの生産とlovastatin生合成関連遺伝子群の発現が確認できた。これにより、本課題の中核となる液/液界面培養系では、有機層による二次代謝物の抽出効果(生産物阻害の回避)、効率的な酸素供給、菌形態のマット状管理、カタボライト抑制の解除等の長所に加えて、二次代謝物生産関連酵素群の大量発現も達成されていることが示唆された。なお、液/液界面培養系を基幹とする抗生物質生産カビの新規な高感度・高速スクリーニングシステムを構築し、その有効性を調べたところ、非常に簡便かつ経済的な操作により、標準酵母に対する抗真菌活性物質生産カビのヒット率は、20%超という、驚異的なレベルに達した。 以上の成果に鑑み、現況では本課題の検討は概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
液/液界面培養法による特異な二次代謝物の生産に関しては、界面物性(疎水性、荷電状態)を変動させることにより、二次代謝物プロファイルがどのように変化するかを検討する。先行の課題研究(基盤研究(C)、課題番号22580094)においては界面物性を変動させることによってアルカン水酸化活性と抗真菌性二次代謝物の発酵生産能が有意に向上することを確認したが、同様の効果が多様な株による二次代謝物の生産においても認められるか否かを検討する。 二次代謝関連遺伝子群の解析に関しては、スタチン系化合物の生合成系遺伝子についてより詳細な検討を行なうとともに、プロテオーム解析についても検討を加えたい。 液/液界面培養法を基幹とする新規な界面スクリーニングシステムに関しては、再現性の確認とアッセイ用サンプルの調製に加え、他の生物活性(protein kinase阻害活性)についても検討を加えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析に使用していたリアルタイムPCR装置が不調となり、リアルタイムPCR用試薬・消耗品の購入を控えたため研究費の未使用が発生した。装置については、既に復旧しているため今後の解析に支障はない。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は前年度に解析を行ったデータの精度向上を目指して、遺伝子発現解析を重点的に行う。そのためにリアルタイムPCR用試薬・消耗品の購入を行う。また、装置の不調を早い段階で感知するため頻繁にリアルタイムPCR装置のキャリブレーションを行う。そのため高額なキャリブレーション試薬の購入も行う予定である。
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