研究課題/領域番号 |
25450120
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
秦田 勇二 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, グループリーダー (20399562)
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研究分担者 |
坪内 泰志 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, 技術副主任 (30442990)
西 真郎 独立行政法人海洋研究開発機構, 海洋生命理工学研究開発センター, 技術主事 (50416004)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | リグニン / バイオベースプラスティック / 遺伝子 / 酵素 / 深海 / 微生物 |
研究実績の概要 |
植物構成成分であるリグニンは地球上のバイオマスとしてはセルロースに次いで2番目に多い。各国でリグニンの有効利用に関する研究が注目され始めているのは、リグニンはその構造から石油を原料とする化学製品の95%を代替するポテンシャルがあると言われており、所謂バイオリファイナリーの原料として大きく期待されているからである。今後各国でリグノセルロースからのバイオエタノール生産規模が拡大した場合、リグニンは発酵残渣としても多量に生成される可能性が高い。多量に排出される木質廃棄物系バイオマス(間伐材、製材廃材、キノコ廃菌床、茶殻、稲わらなど)の利用促進も、資源の有効利用の観点から極めて重要な課題である。リグニンは数種類の芳香族化合物が主にβ-O-4結合で重合した物質である。β-O-4結合を選択特異的に切断する酵素の発見がリグニン有効利用への大きな鍵と言える。様々な環境由来の微生物を対象にスクリーニングを実施した結果、β-O-4結合を選択的に効率よく切断する微生物を深海に沈降していた枕木より発見することに成功し、同微生物の部分的ゲノム配列情報を基にβ-O-4結合を特異的に切断するための関連酵素2種の遺伝子の取得に成功している。平成26年度は同2種の重要酵素をコードする遺伝子の周辺のゲノム解析を行った。その結果、リグニン内β-O-4結合を特異的に切断するために必要な残り3種の遺伝子の発見に成功した。これで必須な酵素遺伝子セット(5種遺伝子)は全て揃った。これら5種遺伝子を大腸菌を宿主として発現することにも成功した。さらに同5種の遺伝子組換え酵素を触媒群とした酵素反応により、リグニンβ-O-4結合モデル化合物のβ-O-4結合部分を特異的に効率良く切断することにも成功した。この成果を日本農芸化学会(岡山大学、2015年3月)にて発表した。またゲノム解析結果の概要を論文発表(2015年1月)した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最重要課題であった、リグニンに最も多く含まれているβ-O-4結合を特異的に切断する酵素群遺伝子クラスターを発見することに成功した。続いて、扱いやすい微生物である大腸菌を宿主にして遺伝子組換えによりこれらの酵素群を大量生産することにも成功した。これらの研究進捗から判断し、研究全体として概ね順調に進んでいると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最重要課題であった、リグニンに最も多く含まれているβ-O-4結合を特異的に切断する酵素群を発見することに成功し、さらに大量生産することにも成功した。次の発展課題として、今後はこれら5種の酵素をより効率的に触媒として利用するために、同5種の酵素反応の反応最適条件(pH、温度、塩濃度など)を求める。一方、平成25,26年度は酵素反応実験の出発基質として扱いやすいリグニンモデル化合物を用いてきたが、今後は未利用バイオマスから直接天然由来リグニンを調製し、これを出発基質として酵素反応実験を行うことで、より産業分野に於いて実践的な目的芳香族化合物抽出の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に2回のmate-pair解析を実施し、得られたデータでゲノムDNA配列解析を行った結果、本研究課題の目的に必須な遺伝子(合計5種)は全て同じクラスター内に存在していると予測できた。当初はさらに複数回のmate-pair解析とサンガー法によるゲノム解析を行いホールゲノム解析を完結させる計画をしていたが、5種の遺伝子全てのゲノム上の位置が早期に推定できた時点で、各々の遺伝子機能の確認実験に移行した。異種宿主による酵素遺伝子発現が不可能な場合を想定し、生産菌自体の遺伝子破壊実験を準備していたが、幸運にも全ての遺伝子が大腸菌で発現できた。従って費用が嵩むシークエンス解析実験の量を最小限に抑えることができたため未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は当初の計画より目標を一段高くし、発見できた新酵素法が産業廃棄物など未利用バイオマスの有効利用化にどれだけ有効であるか手厚く検討する。様々な未利用バイオマスから如何にリグニン成分を効率良く調製し、酵素法の材料とするかがポイントとなると考え、平成27年度は分担研究者を1名追加し、様々な天然リグニンの調製とその酵素法抽出物の解析に注力する。その際の実験援助者1名用の人件費に未使用額を充てる。
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