研究課題/領域番号 |
25450121
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
加藤 千明 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生物多様性研究分野, シニアスタッフ (90360750)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 圧力 / 深海微生物 / 酵素 |
研究実績の概要 |
これまでの結果から、絶対好圧菌シェワネラベンティカのイソプロピルリンゴ酸脱水素酵素(以下、深海酵素)の耐圧性には、活性中心構造を含む中央部のドメインが重要であるということがわかった。この中央部のアミノ酸配列を陸上菌シェワネラオネイデンシス由来相同酵素(陸上酵素)と比較して、それぞれの異なったアミノ酸を深海酵素のアミノ酸と陸上酵素のアミノ酸との全ての組み合わせで交換していき、高圧分光光度計を用いて、精製した全ての変異酵素の加圧条件下の活性を比較した。その結果、活性中心の裏側のくぼみ部分に相当する266番目のアミノ酸を陸上酵素型のセリン(S)と深海酵素型のアラニン(A)とで交換したとき、陸上酵素S266A型は耐圧酵素となり、逆に深海酵素A266S型では圧力感受性となった。これらの変異酵素間において他の活性パラメーターや熱安定性等に有意な差異が見られなかったので、この1アミノ酸変異による活性の違いは圧力条件のみによるものであった。 これらの酵素を結晶化し、高圧下における立体構造変化を調べたところ、266番目のアミノ酸が陸上酵素型のSの場合、活性中心の裏側に存在するくぼみ部分に3つの水分子が留まるのに対し、深海酵素型のAの場合、これらの水分子が留まらないことが観測された。すなわち、陸上酵素が圧力に対して感受性であるのは、加圧条件下においてこのくぼみ部分に余分な水分子が侵入し、親水性アミノ酸のSと水素結合することによって、酵素分子の動きが抑制され活性発現も同時に抑制されるという現象が起こったと推定された。それに対して深海酵素ではこの部分が疎水性アミノ酸のAであるため、加圧下でも水分子が結合出来ず留まらないため、活性発現に重要な分子の柔軟性が補償されているということがわかった。 これらの成果をとりまとめて、論文を投稿し、Extremophiles誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文投稿して、種々のコメントをいただき追実験、再実験を行ったため、論文採択に時間がかかってしまったが、科研費の期間内に最終的にExtremophiles誌に採択され公表することができたので、ほぼ順調に進展してきているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本来は2015年度で研究を終了させる予定であったが、2016年度に国際極限環境生物学会の我が国での開催が決まり、最終的に本成果を世界に宣揚する場として、この学会で発表を行うこととした。そのため、最終年度を1年延長させていただいた。 今後は、本研究成果をもとに、タンパク質の高圧力適応における、よりジェネラルな機構の解明に向け、新たな研究提案をしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年9月に、第11回国際極限環境生物学会が開催されるが、この学会において研究成果の発表を行うために、2015年度内に予定していた学会への参加を取りやめたため。
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次年度使用額の使用計画 |
第11回国際環境生物学会への参加および、その他、論文発表などの経費に使用する。
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