昨年度までに、深海高水圧下環境に適応した絶対好圧菌、シェワネラベンティカDB21MT-5株(マリアナ海溝底より分離)のイソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の圧力耐性は、266番目のアミノ酸の疎水性アラニンの性質に帰着することを明らかとした。すなわち、陸上環境より分離されたシェワネラオネイデンシスMR-1株(圧力感受性)の同酵素の266番目のアミノ酸が親水性セリンで、本酵素の高圧下における結晶構造解析の結果から、このセリンに加圧により押し込まれた水分子とが結合している状況が観察され、その結果、加圧により活性中心の柔軟性が阻害されて活性の阻害を受けると推定された。そこで、圧力感受性のMR-1株の酵素の266番目のアミノ酸「セリン」を、好圧菌型のアミノ酸「アラニン」に変換したところ、圧力感受性型の酵素が圧力耐性型酵素に変化したことが確認された。逆に、圧力耐性型酵素の266番目のアミノ酸「アラニン」を圧力感受性型のアミノ酸「セリン」に変換したところ、圧力耐性型が圧力感受性型に変化したことも確認された。高圧結晶構造解析の結果から、このアミノ酸分は、活性中心の裏側のフランジ部分に相当し、圧力によりこの部分に水分子が結合するか否かの違いで、同酵素の圧力特性が規定されることが分かった。絶対好圧菌の酵素が、わづか1アミノ酸の性質によって圧力耐性が保持されていることは非常に興味深い結果で、その活性構造相関をまとめて、Extremophiles誌に報告をおこなった。そして、今年度は、これらの成果を国際学会等で発表するために、研究期間を1年間継続し、国際極限環境生物学会等で報告をおこない、さらに、総説論文を高圧力学会誌に発表した。
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