本研究では、バイオマス資源の一つである「キチン」を医薬・健康食品として有用な「グルコサミン類」に効率よく分解するキチン系代謝酵素の反応メカニズムを解明し、各種酵素の利活用を目指す。申請者は2つの耐熱性キチン代謝酵素に着目し、本研究期間中、以下のような成果を上げた。なお、立体構造に関しては、いずれも初めての報告であり、様々な有用な知見を得ることができた。まず、①キトビオース(キチン2糖)を特異的に脱アセチル化する酵素「耐熱性脱アセチル化酵素」を高分解能(1.5Å)で立体構造解析した結果、本酵素の6量体構造が基質特異性に大きく影響していることを明らかにした。また、他の酵素と協同的に働き、グルコサミンを作り出すことが分かった。次に、②最終目的物であるグルコサミンを生産する酵素「耐熱性アセチルグルコサミニダーゼ」の立体構造解析を行い、本酵素が2量体を形成し、他の酵素には見られないユニークな活性部位構造を有することを明らかにした。しかしながら、構造解析時の分解能が低かったため(2.6Å)、基質認識・分解反応メカニズムの解明にまでは至らなかった。そこで最終年度は本酵素の分解能向上を目指し、種々の条件下における結晶化スクリーニングを行った。その結果、分解能を2.0Åまで改善する結晶化条件を見出すことに成功した。しかしながら、本酵素と基質との複合体の結晶構造解析までには至らず、本酵素の基質認識機構は未知のままである。
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