近年、地球規模での環境問題・食糧問題には極めて高い関心が注がれており、環境に優しい方法による作物保護は今世紀の最重要課題のひとつである。研究代表者は有機合成化学・天然物化学の視点からストリゴラクトン関連諸物質の合成化学的研究を行ってきた。ストリゴラクトンは根寄生雑草種子発芽誘導物質の総称であるが、近年、アーバスキュラー菌根菌の共生シグナルおよび枝分れを抑制する植物ホルモンとしても知られるようになった化合物群である。本研究の主たる課題は天然ストリゴラクトン類の化学合成であるが、ストリゴラクトンおよびその類縁化合物には寄生雑草防除等への応用の可能性が期待されているため、作物保護への直接的貢献を視野に入ている。本年度の主な成果を以下に示す。 1)タバコより単離されたソラナコールの簡便な新規光学活性体合成を達成し、論文発表した。(BBB論文賞受賞) 2)ソルガムより単離されたソルゴモールの光学活性体合成に取り組み、従来の知見を精査・再検討することによって、その合成法を確立した。 3)ストリゴラクトン類の生合成における重要な中間体とされているカーラクトン酸(およびカーラクトン酸エステル)の新規高効率合成法を開発した。Knoevenagel縮合を鍵反応とする基本骨格構築法は短工程・高収率でのカーラクトン酸類の供給を可能にした。4)ヒマワリより単離されたヘリオラクトンの合成研究に取り組み、Knoevenagel縮合を鍵反応とする基本骨格構築法を確立した。5)連続的な一酸化炭素挿入反応を基盤としたストリゴラクトン3環性ラクトン部分の新規合成法を開発した。
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