本研究ではDNA配列を任意に選択して結合出来るPy-Imポリアミドを利用し、遺伝子組換えと同等かつ遺伝しない有用な形質を植物にもたらす化合物の合成システムの開発を目指している。平成27年度では、平成26年度までに構築した酵母を用いた化合物評価系で評価が為されたPy-Imポリアミドについて、実際に植物(シロイヌナズナ)に添加することで、目的とした表現型が出るか確認を行った。二次細胞壁の構築が不全になり、花序がしなだれる表現型を誘導することが期待される化合物を培地に添加し、シロイヌナズナを生育させた。培地への添加濃度は、酵母を用いた評価系での結果を参考にした。その結果、化合物を添加していない培地で生育させた植物と比較して、花序はしなだれることはなかったが、全体適な生育が遅延した。更にマイクロアレイ解析により遺伝子の変動を網羅的に解析した結果、Py-Imポリアミドの添加により、遺伝子の発現レベルが全体的に低下しており、特に細胞壁関連の遺伝子の発現量が低下していた。この結果は、合成した化合物の添加により、ある程度狙い通りの遺伝子発現の変化が誘導されたことを示唆している。本研究はPy-Imポリアミドを利用して、植物の遺伝子発現を人為的にコントロールした初めての成果である。しかしながら、発現が低下した遺伝子群のプロモーター領域に、合成したPy-Imポリアミドが結合する配列が多く含まれているか確認を行ったところ、そのような配列を見いだすことは出来なかった。本来の標的遺伝子以外の遺伝子の発現も低下させていることが原因かもしれない。
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