研究課題/領域番号 |
25450162
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
平井 静 千葉大学, 園芸学研究科, 助教 (90432343)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 妊娠期低栄養 / 糖質制限 / 肥満 / 糖・脂質代謝 / レプチンサージ / マウス |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、マウスの妊娠後期に糖質のみの制限による40%の摂取エネルギー制限(糖質制限)を行った場合、すべての栄養成分の制限による同レベルの摂取エネルギー制限(総エネルギー制限)とは異なり、出生仔において脂肪酸合成の促進やインスリン感受性低下は誘発されず、むしろ白色脂肪細胞の小型化を介してインスリン感受性が亢進され肥満体質獲得には繋がらないことを見出してきた。また、げっ歯類では、新生仔期に血中レプチン濃度が一過的に上昇するレプチンサージと呼ばれる現象が認められており、胎生期低栄養状態による肥満体質獲得はこのレプチンサージの早期化に関与している可能性が報告されている。そこで本年度の研究では、妊娠期に制限するエネルギー源の違いによって出生仔の肥満体質獲得に差が生じるメカニズムについて、このレプチンサージに着目して検討を行った。 その結果、妊娠後期に総エネルギー制限または糖質制限を行った母マウスから出生した仔マウスはいずれも新生仔期におけるレプチンサージが早期化しており、皮下脂肪組織におけるレプチンmRNA発現の結果とも一致していた。このことから、レプチンサージの早期化は、制限する餌中のエネルギー源によらず低エネルギー状態によって生じること、またレプチンサージの早期化のみではその後の肥満体質獲得には繋がらないことが示唆された。 そこで次に、レプチンサージ早期化のメカニズムについて検討を行うため、脂肪組織においてレプチン発現の制御に関わる上流遺伝子群の発現を測定したが、総エネルギー制限、糖質制限ともに、いずれの遺伝子の発現にも影響を与えていなかった。このことから、レプチンサージの早期化は、転写因子のmRNA発現の亢進ではなくレプチンプロモーターのエピジェネティック修飾など他の要因によるものである可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究では、マウスの妊娠期における糖質のみの制限による摂取エネルギー制限は、摂取量の制限によるすべての栄養成分の制限とは異なり、出生仔において肥満や糖・脂質代謝異常の増悪化を誘発しないが、これは肝臓における脂肪酸合成や白色脂肪組織におけるインスリン感受性に異なる影響を与えたためであることが判明していた。本年度は、このような差異が生じるメカニズムについて検討するため、新生仔期のレプチンサージについて検討を行った。当初はレプチンサージへの影響のみを検討することを予定していたが、その誘導メカニズムの解明には至らなかったため、新生仔期のインスリン濃度の変動に関しても検討を行い、興味深い結果を得た。以上のことより、本年度の研究はおおむね予定通り順調に進展したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、マウスの妊娠期における糖質制限食の摂取は、出生仔において、脂質代謝の増悪化は誘発せず逆に糖代謝は改善する傾向があるといった正の影響のみが観察されている。しかしながら、胎生期低栄養ラットにおいては、脳におけるストレス耐性シグナルの低下によりうつ様行動を示すことや、ヒトにおいても出生時体重とその後の学力に正の相関があることなどが報告されており、胎生期の低栄養状態が出生後の発達障害を含む精神疾患に関与する可能性が示唆されている。そこで今後は、妊娠期に糖質制限を行った仔マウスにおけるうつ様行動および脳(海馬および視床下部など)における関連遺伝子発現について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
残金が少額で次年度の物品費の一部とした方が有効活用できるため。
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次年度使用額の使用計画 |
mRNA発現解析用試薬等の物品費として使用予定である。
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