研究課題
食事因子と遺伝因子との相互作用によって発症する食事誘導性脂肪肝の原因遺伝子を探索するために、脂肪肝モデルマウスSMXA-5を用いて研究に取り組んできた。このモデルマウスの遺伝解析より見出されたマウス第12番染色体上の脂肪肝感受性遺伝子座Fl1saの候補遺伝子としてIah1を抽出したが、この遺伝子の哺乳動物における機能についての報告は存在せず、機能未知な遺伝子であった。今年度は、以下の2つの面からの機能解析を行った。① Iah1タンパク質の機能解析 (in vitro)昨年度はIah1タンパク質の精製量が不十分だったことから、His-tag融合マウスIah1タンパク質を大腸菌に発現させ、His-trapカラムで精製する方法に切り替えた。これによって、組換えタンパク質の大量精製が可能となった。パラニトロフェノールと炭素数の異なる脂肪酸とのエステルに対して酵母およびマウスIah1組換えタンパク質のそれぞれの酵素活性を測定したところ、炭素数2のエステル基質でのみエステラーゼ活性を確認した。これによりパラニトロフェニルエステルを基質として用いた場合には、酵母とマウスのIah1は共にエステラーゼ活性が低く、酵素活性を評価する基質として適切ではない可能性が示された。そこで、炭素数の異なるアルコールと酢酸のエステルを基質として用いたところ、酵母とマウスのIah1は炭素数6までのアルコールと酢酸のエステルに対して、同等の活性を示すことが明らかとなった。② Iah1遺伝子のノックアウトマウスにおける脂肪肝形成の検証 (in vivo)昨年度入手したloxP配列を有するIah1ターゲッティングマウスと全身でCreを発現するマウスを交配して、全身Iah1ノックアウトマウスの作製に成功した。腎臓、肝臓、肺、小腸でのIah1タンパク質発現が欠損していることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
① Iah1タンパク質の機能解析 (in vitro)昨年度の課題であったマウスIah1組換えタンパク質の動物細胞での生産と精製効率を改善するために、今年度は大腸菌でのタンパク質発現誘導に適した新たなIah1-Hisタグ付き発現ベクターの作製に取り組み、大腸菌での大量精製を試みた。その結果、酵素活性の有無を判断するために充分なマウスIah1組換えタンパク質を得ることができた。続いて、大量精製が可能となった酵母とマウスIah1タンパク質を用いて、エステラーゼ活性を測定した。基質としてまず、パラニトロフェノールと炭素数の異なる脂肪酸とのエステルを用いたところ、予想に反して炭素数4以上の基質に対しては全くエステラーゼ活性が認められなかった。そこで、既報のもう一つの基質である炭素数の異なるアルコールと酢酸とのエステルを用いたところ、期待されたように炭素数6までの基質に酵母Iah1が活性を示し、マウスIah1の酵素活性測定を評価可能となった。この評価系での酵母とマウスのIah1のエステラーゼ活性を測定したところ、アミノ酸相同性は約40%であるが、エステラーゼ活性については同等であることを明らかにすることができた。今年度は、エステラーゼ活性測定を予定通り進めることができ、当初の予定を達成した。② Iah1遺伝子のノックアウトマウスにおける脂肪肝形成の検証 (in vivo)予定通りに今年度中に全身ノックアウトマウス作製が完了した。また、肝臓特異的Iah1ノックアウトマウスの作製についても継続中であり、来年度中には作製が完了する予定である。
実験①のエステラーゼ活性測定は今年度達成したため、最終年度である来年度は②の実験系と以下の実験③を主に推進する予定である。② Iah1遺伝子のノックアウトマウスにおける脂肪肝形成の検証 (in vivo)全身Iah1ヘテロノックアウトマウスの交配によって得られるホモノックアウトと野生型マウスを通常食および高脂肪食で6週齢より7週間飼育し、Iah1遺伝子欠損による高脂肪食誘導性肥満、肝臓脂質蓄積への影響を検討する。この場合、全身でのIah1遺伝子欠損であるため、肝外組織におけるIah1遺伝子が2次的に肝臓に作用して肝臓脂質蓄積に影響を及ぼしている可能性がある。その可能性を検討するために、今年度から引き続き肝臓特異的Iah1ノックアウトマウスの作製を推進し、全身ノックアウトマウスとの表現型比較を可能にすることを目標とする。③ Iah1遺伝子転写調節領域の同定 (in vitro)今までのIah1遺伝子の転写開始点の上流に存在する119bpの欠失領域のルシフェラーゼアッセイの結果から、この欠失単独ではIah1の転写調節には影響しないことが示唆された。しかし、明らかにIah1の遺伝子発現量とIah1遺伝子上流領域の変異との間には関連性が見られるため、Iah1遺伝子の上流約900bpには119bpの欠失以外にも、SM/JマウスとA/Jマウスとの塩基配列にはSNPが存在すると推定している。来年度は、119bpの欠失以外のSNPや変異をゲノムシークエンシングによって検出し、変異箇所をルシフェラーゼベクターに挿入し、プロモーターアッセイによりSM/JとA/Jとの間の配列変異によるIah1遺伝子の転写レベルの調節との因果関係を明らかにする。また、SM/JとA/Jのマウスだけでなく、他系統マウスのIah1発現レベルと転写制御領域の変異との関連性についても検討することで、見出した変異が普遍的なIah1の発現制御に関与するか否かを明らかにする予定である。
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PLoS One
巻: 9 ページ: e96271
10.1371/journal.pone.0096271.