研究課題
基盤研究(C)
我々が日常的に摂取している一部の食品に多種多様な疑似ビタミンB12(B12)が多量に含まれていることを明らかにした.しかし,疑似B12の生体に及ぼす影響や細胞内代謝については不明であり,日常的に疑似B12を摂取することがB12の吸収を妨げ,細胞内でB12の代謝系を阻害することになれば,B12欠乏症に基づく疾患(神経障害)の発症が危惧される.そこで,食品に含まれる疑似B12を網羅的に分析すると共に多種多様な疑似B12を大量に調製し,B12の腸管吸収や細胞内輸送に関与するB12結合タンパク質やB12依存性酵素に及ぼす影響を分子レベルで検討することで,疑似B12類の生体に及ぼす影響を精密に解析することが本研究の目的である.平成25年度には,我が国の主要なB12供給源である食用貝類や食用藻類についてLC/ESI-MS/MS法を用いて疑似B12の存在量や分子種を検討した.その結果,二枚貝で摂取頻度が高いアサリやカキにはB12のみが検出されたが,シジミや赤貝などの多数の二枚貝で少量の疑似B12が検出された.一方,巻貝ではバイ貝を除きサザエやエスカルゴにはB12以外に多量で多種類の疑似B12が検出され,食性の相違がこれら貝類に含まれるB12化合物の種類に影響を及ぼすことが示唆された.食用藻類では,多種類の紅藻に多量のB12が含まれていたが,すべての食用藍藻では疑似B12が主要なB12化合物であった.また,キノコの加工品の多くに天然に存在しないB12[c-lactone]が検出された.B12[c-lactone]は,キノコに含まれるB12が塩素系殺菌剤と反応することで生成したことが明らかとなった.多種類の疑似B12の大量調製法や生体に及ぼす影響を検討するためのツールとしてB12の腸管吸収や血中輸送に関与するB12輸送タンパク質の大量調製法も検討した.
2: おおむね順調に進展している
食品中の疑似ビタミンB12(B12)類の分布と含有量については,我が国における主要なB12の供給源である魚介類において,摂取頻度の高い食品についてはほぼ分析が完了した.今後は一部の食用藻類や畜肉(内臓肉を含む)ならびに乳製品・鶏卵を残すのみとなったことから,プロジェクト期間内に分析が完了できると考えられる.疑似B12類の調製については,6種類の疑似B12のなかで3種類は大量調製法の条件を確立した.残り3種類については,市販されていない構成成分の有機合成も含めて今後検討する必要がある.B12依存酵素ならびにB12輸送タンパク質の組換えタンパク質の調製については,2種類のB12酵素と3種類のB12輸送タンパク質の遺伝子をクローン化し,大量発現系を構築中である.すでに3種類の組換えタンパク質は調製でき,残り3種類のタンパク質については引き続き検討する.以上の結果より,計画はおおむね順調に進展していると判断される.
食品中の疑似ビタミンB12(B12)の分布と含有量の分析については,平成25年度に引き続き鳥取大学農学部に設置されているLC/ESI-MS/MS装置を用いて,食品中の疑似B12の種類と存在量を測定し,分析サンプル数の増大をはかる.疑似B12がB12の吸収・輸送タンパク質に及ぼす影響については,平成25年度に引き続き調製が困難な残り3種類の疑似B12と3種類の組換えタンパク質の大量調製法を検討する.これらすべての疑似B12とB12関連組換えタンパク質が調製でき次第,鳥取大学生命機能支援センターに設置されているタンパク質相互作用解析装置を用いて各種疑似B12とB12輸送タンパク質の結合能やB12の結合阻害活性について検討する.また,ヒト肝臓由来培養細胞であるHepG2などを用いて疑似B12がB12の取込み系に及ぼす影響や細胞内に取り込まれた疑似B12が補酵素型に代謝されるかどうか,またB12依存性酵素タンパク質への結合能や補酵素作用に及ぼす影響をin vitroの系で検討する.
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