研究課題/領域番号 |
25450179
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 共立女子大学 |
研究代表者 |
熊谷 仁 共立女子大学, 家政学部, 教授 (20215015)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 嚥下障害 / 誤嚥 / 超音波パルスドプラー法 / 食塊 / TPA試験 / 粘度 / 嚥下困難者用介護食 / 咽頭部流速 |
研究概要 |
近年、社会の高齢化に伴い、誤嚥を起こす高齢者が増加しており、誤嚥に起因する誤嚥性肺炎は大きな問題となっており、増粘剤(トロミ剤)やゲル化剤を用いた介護食の開発が行われている。介護食の飲みやすさの評価は、一般に、TPA試験(Texture Profile Analysis)から求められるパラメータである「かたさ」(hardness)、「付着性」(adhesiveness)、「凝集性」(cohesiveness)である。この付着性が“べたつき”の尺度、凝集性が“まとまりやすさ”の尺度とされる。しかし、TPA試験から求められるパラメータがヒトの口腔内における食物・食塊の挙動とどの程度関連があるかの根拠は明らかでない。 本研究では、各種液体、物理ゲルなどの食品モデル、市販の介護食やトロミ剤などについて、動的粘弾性、粘度、テクスチャー(TPA)などの機器測定、超音波パルスドプラー法を用いた咽頭部での流速測定を行う。それらの結果に、食品物性論的、食品物理化学・工学的考察を加え、嚥下困難者用介護食のテクスチャーデザインに定量的指針を与えることを目指す。 本年度は、味覚が類似し、テクスチャーの異なるゲルを用いて、国の「えん下困難者用食品」の基準中の方法に基づいたTPA試験を行った。得られたTPA曲線から、3つのパラメータ「硬さ」、「付着性」、「凝集性」を求めた。また、同一のゲルを用いて、超音波パルスドプラー法により、咽頭部通過時の食物の流速を測定した。 3つのパラメータの中では「硬さ」が、誤嚥リスクを予測しうると報告がある咽頭部最大流速Vmaxとの相関が最も高かった。試料濃度の増加に伴って、「硬さ」と咀嚼物粘度は共に増加したので、このことが「硬さ」とVmaxが相関する理由と考えられた。「硬さ」の値が数千N/m2以上では、Vmaxの値が誤嚥しにくいとされるヨーグルト程度となり、誤嚥の危険性がかなり低減することが示された。一方、「凝集性」は、咽頭部流速分布との相関が見られなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においては、(1)TPAの測定条件についての検討、(2)食品の物性・テクスチャーと咽頭部での食塊の流速との関係についての検討、(3)嚥下困難者用の介護食の物性指標に対しての提言の3つが柱となっている。本年度は、サイリウムシードガム、脱アシル型ジェランガム、とそれらの混合ゲルの3種類のゲルに限定された結果とはいえ、味覚の類似しているが、テクスチャーの異なるゲルを用いて、上述のように、TPA試験から求められるパラメータの中では、「硬さ」が咽頭部最大流速との相関が最も高いことを明らかにしたことは大きな成果と考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
多糖類など、より多くの味覚的には類似したゲルを用いて、TPA試験および咽頭部流速の測定を行う。TPA試験については、厚生労働省の基準にある測定速度 10 mm/s のみでなく、1 mm/s での測定も行う。咀嚼物粘度と咽頭部流速との関係についても引き続き検討を行う。 超音波測定より安価な生体計測法である嚥下測定も実施し、誤嚥の危険性と嚥下時間との関係についても検討を行う予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
申請備品としてあげていたレオメータが、旧機種の改良ですみ新機種の購入が不要となったため。また、本年度の研究成果を論文投稿して受理されたが(研究発表の欄に記入)、その別刷りの到着と掲載料(約10万円)の請求が、年度末から年度初めにかかっていて事務的処理が間に合わなかったこともある。 投稿論文の別刷りと請求書は届いたので、その支払いに充当する。また、嚥下音の解析において、新たな数学的変換ソフト(特注)が必要となったので、その支払いにも当てる。
|