近年,食物の嚥下の際に食塊が気管の方へいく誤嚥を起こす高齢者が増加しており,そうした嚥下困難者のための介護食の重要性が高まっている。申請者はこれまで,誤嚥と密接に関係すると思われるヒトの咽頭部における食塊の流速分布を人体に無害な超音波診断装置によるパルスドプラー法によって測定することを可能にしてきた。本研究では,食品物性論,食品物理化学および食品工学的視点から,嚥下困難者用介護食の物性と咽頭部における食塊の流速や流動時間との関係について検討し,嚥下困難者用介護食のテクスチャーデザインにおける指針を与えることを目的とする。 本年度は,嚥下に関する簡便な生体計測法である嚥下測定を行い,食品物性と嚥下時間との関係について検討を行った。試料としては,増粘剤,ゲル化剤,誤嚥しやすい水,誤嚥しにくいとされるヨーグルトを用いた。嚥下音測定は,咽頭マイクを喉に取り付け,試料を嚥下した際の音をIC レコーダー で録音した。得られた波形データを, LabVIEWプログラムを用いて解析し,嚥下時間を求めた。嚥下音の波形は喉頭蓋閉鎖に関わる時間t1,食塊流動時間t2,喉頭蓋開口に関わる時間t3の3つの部位に分けられた。t1およびt3の値は,試料や嚥下量によらず,ほぼ一定であった。t2の値は水の方がヨーグルトより大きく,増粘剤溶液に関しては濃度増加に伴い減少してヨーグルトの値に近づいた。また,試料の嚥下量の増加に伴いt2の値は増加した。t2をずり速度25s-1における粘度に対してプロットすると,流動特性の異なる試料でも一本の曲線で整理できた。またゲル化剤に関して,t2は,申請者らがこれまで,誤嚥の危険性の指標になりうると報告してきた咽頭部最大流速と高い相関がみられた。以上から,食塊流動時間t2は嚥下特性の簡便な評価の尺度になりうることが示された。
|