甘味受容体の構造機能特性の解明を目的とし、様々な種の甘味受容体T1r2/T1r3について膜移行機序、甘味阻害効果、多量体形成等を行った。甘味受容体T1r2/T1r3はGタンパク質共役型受容体ファミリーのクラスCに属していることから、同じクラスCに属し、構造的に解析の進んでいる、代謝型グルタミン酸受容体mGluRを参考にした。 まず、甘味受容体が甘味を受容してから細胞内伝達に至る構造機能についての解析を行うために、甘味受容体T1r2/T1r3の構造の内、甘味物質と相互作用する部位、Gタンパク質への情報伝達に関与する可能性のある部位などを点変異させて、受容体の膜への移行、甘味物質に対する応答等を解析した。その結果、多くの変異体で膜移行が出来なくなる現象が見られた。また、T1r2/T1r3には甘味物質との結合部位を複数保有しているが、1つの結合部位の変異が、受容体全体の構造を変化させてしまう現象も見られた。これらから、味物質を結合させる部位が、受容体全体の構造機能にも関与することが示された。 次に、ヒト、齧歯類、霊長類、魚類のT1r2/T1r3を用いて、膜移行能の比較を行った。 齧歯類と魚類のT1r3は単独で膜へ移行出来るが、霊長類とヒトT1r3の膜移行にはT1r2の共存が必要であることが明らかになった。よって、T1r3は単独では膜移行できないように進化したことが強く示唆された。さらに、T1r3のC端を一部欠損させた変異体を構築して膜移行を調べたところ、全ての種について膜移行能が著しく低下することを見出した。それぞれについて膜移行に関わる部位を特定したところ、種によって異なっていることが示唆される結果が得られた。よって、T1r3は種により異なる膜移行の仕組みを持つことが改めて示された。
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