昨年度に引き続き、食品のマトリクス構造の中に存在する澱粉の酵素分解性の制御要因を明らかにするために、食品のモデル系として澱粉と数種類の多糖類を組み合わせた高濃度澱粉ゲル、そして米粉を50%配合した米粉パンに、米粉パンの品質改良剤として使用されている2種類の多糖類を配合したパンを調製し、各種試料の物理特性とマトリクス構造の中に包括されている澱粉の酵素分解性との関連性を解析した。澱粉と多糖類を組み合わせたゲルについては、ゲルの動的粘弾性と破断特性の評価を行った。マトリクス構造の強度の指標となる硬さや動的粘弾性の各種パラメータと澱粉の酵素分解性については有意な相関性は見られなかった。ヒトの消化過程を模擬したin vitro評価法によって、澱粉の酵素分解性を測定する過程での振動、衝撃によって破砕された後の試料の破砕度を測定した結果、粒径の小さい断片が多い試料ほど酵素分解性が低い値を示した。これは、細かく破砕されやすい試料ほどマトリックス構造の中から多糖類が流出し、酵素反応液の粘度が高くなったために酵素分解性が抑制された可能性が示唆された。また、各種多糖類の配合率を変えて調製したパンについては、焼成後0日目と4日目の試料について、パンの硬さ、回復率、伸長率をテクスチャーアナライザーで解析し、澱粉の酵素分解性との関連性を解析したが、有意な関連性は認められなかった。パンは気泡が多いため、硬いパンでもマトリクス構造の中に含まれる澱粉は酵素の作用を受けやすい状態であると考えられた。
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