研究課題/領域番号 |
25450198
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
並川 寛司 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (90192244)
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研究分担者 |
北村 系子 独立行政法人森林総合研究所, その他部局等, 研究員 (00343814)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 島嶼 / 北限 / ブナ / 種組成 / 葉緑体ハプロタイプ / 核マイクロサテライト / 北上山地 / 佐渡島 |
研究実績の概要 |
昨年度行った植物社会学的な種組成調査の結果,奥尻島ブナ林の一部は,岩手県の北上山地にみられる既存の植生単位(ブナ-チシマザサ群集ツクバナンブスズ亜群集)との関連が認められた。このことを受け,本年度は北上山地を中心とする東北地方北部(以後,東北地方と記述)および佐渡島において,以下のような植生調査と得られた資料の解析及び分子遺伝学的な変異の解析に必要な試料の採取と分析を行った。 1)東北地方および佐渡島の13林分を対象に,植物社会学的な種組成の調査を行った。 2)植物社会学的な調査から得られたデータをデータベース化し,昨年度行った奥尻島および道南での植生資料(23林分)と併せ,奥尻島ブナ林の種組成から見た特徴を検討した。 3)葉緑体DNAのハプロタイプの同定と核マイクロサテライトの変異を明かにするために,植物社会学的な調査を行った林分周辺のブナ個体群(13個体群)を対象に,葉あるいは冬芽の採取を行った。 4)葉緑体DNAのハプロタイプの同定と核マイクロサテライトの変異を解析した。 上に示した1)および2)の結果,奥尻島と佐渡島のブナ林の種組成の間に明瞭な関連は認められなかった。一方,奥尻島のブナ林は種組成から2つのタイプに分けられ,東北地方の相対的に標高の低い場所に位置するブナ林あるいは渡島半島および東北地方の相対的に標高の高い場所に位置するブナ林と,それぞれ共通の種群によって特徴づけられた。3)および4)の結果,調査した合計36個体群のハプロタイプは,奥尻島(4個体群)および渡島半島(5個体群)を除き全てハプロタイプBであった。また,核マイクロサテライトの変異の分析については未だ不十分であるが,下北半島の個体群(浅虫と大間)と渡島半島および奥尻の個体群の間に類似性が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
奥尻島のブナ林の種組成は,当初予想していた同じ日本海に浮かぶ島嶼である佐渡島のブナ林との類似性を示さなかった。一方,奥尻島のブナ林には,種組成から見て2つのタイプのブナ林があり,それぞれ渡島半島および東北地方の相対的に標高の高い場所に位置するブナ林(地理的には,早池峰山周辺,岩手県北部の内陸側,八甲田山の南西部)及び東北地方の相対的に標高の低い場所に位置するブナ林(地理的には,宮古市周辺と下北半島の浅虫および大間)と共通する種群を持つことが明らかになった。このような種組成の違いは,当初予想していたように温度要因や積雪量(日本海指数)と対応していることが明らかになったが,標高とも対応していることは予想外であった。今後は,文献資料も併せて解析するとともに,種組成だけでなく,出現した種の地理的分布や生態にも着目し,奥尻島のブナ林の種組成についての詳細な解析が必要であることが判明した。 一方,核マイクロサテライトの変異について解析した結果,下北半島,渡島半島,奥尻島の間に変異の類似性が認められた。このことは,未だ予備的な解析の段階だが,後氷期のブナの北進ルートに関し,下北半島経由でのルートが存在することを示唆している。このことは,本研究の目的である「奥尻島のブナが,どこから,どのようにしてやって来たのか」という課題に対し,「どこから」という点に大きな示唆を提供する結果である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,植生に関わる研究及び分子遺伝学的な変異に関わる研究,何れについてもこの2年間のデータに参照可能なデータを加え,最終的なまとめを行う予定である。 植生に関わる研究については,これまで蓄積した植生資料に文献資料を加え,奥尻島ブナ林の種組成の特徴を,構成種の地理的分布とその生態にも着目して明らかにし論文としてまとめる予定である。 分子遺伝学的な変異に関わる研究については,この研究課題の中で対象としてきた個体群の試料全てに加え,保有する試料も含めて解析を進め,後氷期以後のブナの北進ルートについて明らかにする予定である。
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