研究課題
昨年度までに得た植生資料に,本年度渡島半島で行った4箇所の調査地の植生資料を加えた。これらに文献から得た東北地方日本海側の低地の植生資料14箇所を加え,植物社会学的な表操作を行った。その結果,奥尻島,渡島半島,東北地方北東部のブナ林は共通の種群でまとめられ,東北地方日本海側のブナ林とは組成的に異なることが明らかになった。奥尻島に限ると,島の北西側に位置するブナ林は寡雪環境を指標する種群を持ち,島の東側中部に位置するブナ林とは異なる種組成を示した。奥尻島での種組成の違いが積雪深と関連することが予想されたことから,3月上旬に積雪深の実測を行った。その結果,奥尻島の積雪深は全体として少ないものの,島の東側中部(約50 cm)に比べ北西側では半分以下(約20 cm)で,種組成と積雪深との間に密接な関係のあることが明らかになった。奥尻島のブナの葉緑体DNAハプロタイプをみると,積雪深の小さい北西側にハプロタイプBが,積雪深の大きい東側中部にハプロタイプAがみられた。また,渡島半島の東側(亀田半島)においても積雪深とハプロタイプの間に同様の関係が見られた。ハプロタイプBは東北地方北東部にも分布し,津軽海峡を挟みその北の亀田半島へと連なって分布し,さらに距離をおいて奥尻島西側に隔離的に分布していた。一方,相対的に多雪な地域に分布するハプロタイプAは,東北地方日本海側から津軽海峡を挟み渡島半島の西側(松前半島)に分布し,奥尻海峡を挟んで対岸(奥尻島東側中央部)に分布していた。奥尻島におけるハプロタイプBの存在は,奥尻海峡の幅(約18 km)とハプロタイプBの地理的分布および積雪深との関係から考えると、奥尻島がこの寡雪に適応したタイプのブナの逃避地であったことを示唆している。一方,多雪地に分布の中心を持つハプロタイプAが最終氷期に奥尻島に存在していた可能性は低く,氷期以降に分布拡大したと推察される。
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Tree Genetics & Genomes
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10.1007/s11295-015-0857-y
Frontiers in Ecology and Evolution, section Plaoecology
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http://dx.doi.org/10.3389/fevo.2015.00046