本研究の目的は、熱帯泥炭湿地林において樹木の開花・結実の季節性や遺伝的多様性が、水位の低下による森林の劣化に対してどのように変化するのかを解明することによって、今後の泥炭湿地林管理にむけた有効な知見と指針を提供することである。そのために本研究では、人為により水位が低下した林分とその影響を受けていない林分において調査を行い比較することによって、1)劣化に伴う水位の低下によって樹木の結実季節性や結実量の変化と2)水位の変化に伴う種子捕食者(小型ほ乳類)の動態の変化と3)水位の低下が樹木の遺伝的多様性に与える影響を解明中である。調査地はインドネシア中央カリマンタン州にある泥炭湿地林である。これまでの調査において以下のことが明らかになった。 1)択伐によって排水されている森林の水位の季節変動は、排水されていない森林と比べて大きくなっており、乾期の水位はより低く、雨期の水位はより高くなっている。 2)ジャックフルーツの種子を用いた除去実験の結果、雨期における種子捕食圧は排水区の方が非排水区よりも低くなっていたことが明らかとなった。 3)これまでの開花結実に関する調査結果によると、排水がなされた森林における樹木種の結実頻度は非排水区よりも高くなっている結果がえられた。 これまでの結果によると、排水がなされた森林においては樹木の開花結実頻度が上昇しており、その影響は当初予想されていたようなネガティブなものではなかった。その原因としては、水位の低下に伴う冠水ストレスの低減・乾燥により泥炭の無機化が進行し養分状態が良くなったなどの理由が考えられる。今後はこれらの仮説を検証する研究を継続していきたいと考える。
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