本研究では、獣害被害発生メカニズムを描写できる時空間的モデルを構築し、効率的・効果的な生息地管理の空間配置を探索するためのシミュレーション分析を行った。害獣による被害は、そもそも所有者が管理する土地、および周辺の土地の状態に対応して発生するもので、害獣は自らの生存のために「餌」となるものを確保しているだけであり、管理を邪魔しようと行動しているものではない。そこで、野生鳥獣の採餌行動をシミュレーションし、様々な管理の空間配置パターンが被害拡散へ及ぼす影響を評価した。具体的には、近年農作物に多大な被害を及ぼしている、イノシシを対象に、その採餌行動について、文献調査を行い、様々な国・地域で、これまで実施された研究成果を取りまとめた。そして、それらもとに、動きのルールやモデルのパラメータを設定し、基本的な採餌行動を再現できるエージェントベースモデルを構築した。そして、林地・農地の境界領域を仮想的なランドスケープを用いて表し、農地に隣接する林地から夜間に餌を求めて動き回るイノシシの様子を時空間的な獣害拡散過程として捉え、様々な緩衝帯の空間配置パターンが農作物被害軽減に効果的・効率的かどうかをシミュレーション分析した。ここでは、特に、農地の所有者が獣害に対する予防策として、所有地内に緩衝帯を設置する場合を想定し、緩衝帯の幅と農地面積のトレードオフ、すなわち、被害リスク軽減と農作物の生産量のトレードオフを評価した。また、不確実な仮定やパラメータ(「摂取カロリー」、「資源量」、「嗅覚レンジ」、「1 日の採食時間」など)について感度分析を行い、モデルの特性を評価した。我々の分析結果は、緩衝帯の最適空間構造が被害軽減に対する管理費用と被害額の効率的なバランスに依存することを示唆した。また、我々の分析結果は、緩衝帯に「抜け道」が存在すると緩衝帯の効果が著しく損なわれる可能性があることを示唆した。
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