北海道胆振、日高、空知地方において2年間調査された稚樹、小径木の本数や成長に関するデータについて、シカ生息状況に関する指標との関係を解析した。稚樹の樹高成長と小径木・稚樹の本数の増加率は、ライトセンサスによるシカ目撃数が多いほど低下した。稚樹の樹高成長や小径木・稚樹の本数の増加率は稚樹の食痕率と相関があった。 シカの影響が顕著ではなかった北海道新得町及び由仁町の広葉樹二次林に調査区を設定し、稚樹、樹木の成長を継続調査した。また、高さ0~200cmの空間を50cmごとに分け、シカの食痕の有無を記録した。シカの影響によって胸高直径3cm未満の本数が激減した。当初は50~150cmの高さの食痕が多かったが、この層の枝葉の減少に伴って上下の階層の採食も多くなり、採食によって高さ200cm以下に枝葉を付ける稚樹・樹木が減少した。 1993年に奈良県大台ヶ原に設定した調査区において、2013年に胸高直径2cm以上の樹木を調査した。調査区の一部には2003年に防鹿柵が設置された。柵内でも、柵設置後の10年間で本数が回復したのは一部の低木種に限られた。スズタケの回復はほとんどみられず、高木、亜高木の樹種は本数の減少が続いていた。柵外での2004~2013年のシカ密度の平均は3.5頭/km2であったが、小径木本数の回復はみられなかった。 以上の結果から、シカによる森林への影響の初期段階では、胸高直径3cmの稚樹や小径木のみに影響が現れ、その影響レベルは食痕率によって推定できると考えられた。食痕は高さ50~150cmから上下の階層へ、嗜好性の高い樹種から他の樹種へと拡大し、採食ラインが形成されるプロセスが記録された。スズタケや稚樹が消失した後には、柵によってシカを排除することによって低木種は短期間で増加したが、高木、亜高木はすぐには回復できず、柵外の林内の前生稚樹の回復には非常に低いシカ密度にする必要があることが示唆された。
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