ヒノキ人工林において間伐を実施すると、残存木にとっての土壌の水分、窒素資源が増加し、水分や窒素の利用効率に影響を及ぼす。葉の窒素濃度、窒素安定同位体比は、それぞれ、窒素吸収量、窒素吸収源の指標として利用されており、これらの指標から間伐前後の残存木の窒素利用の変化を明らかにすることができる。高知県いの町および土佐清水市のヒノキ林において、間伐処理区を設定し、間伐によるヒノキ葉の性質の変化を明らかにした。間伐後の葉の窒素濃度は、間伐前の窒素濃度が低く間伐率が大きい林分で増加する傾向が認められた。間伐前後で窒素安定同位体比は変化しなかった。これらの結果より、間伐前に窒素制限を受けている林分ほど間伐後に窒素吸収量が増加するが、ヒノキの窒素源はあまり変化しないと考えられた。また、高知県津野町のヒノキ林において間伐後の樹冠葉量と窒素濃度の変化を評価した。間伐前のヒノキ葉量は15.1~16.8Mg/haであった。間伐によって葉量は3.7~10.4 Mg/ha減少し、その割合(23~69%)は材積の間伐率に近かった。間伐10年後には葉量は6.9~18.1 Mg/haであった。間伐による葉量減少に対する10年間の葉量増加の割合は21~57%であり、回復期間は18~49年と推定された。また、葉の窒素濃度は間伐直後には強度に間伐した林分で増加する傾向が認められるが、間伐10年後には無間伐区との有意な差は認められなかった。間伐直後には、下層植生が少ないため、ヒノキは土壌中の窒素を多く利用することができるが、時間が経過すると下層植生の窒素吸収が旺盛であるために、ヒノキ葉の窒素濃度の増加は抑制された。以上の結果より、間伐後のヒノキの窒素吸収の増加は一時的であること、ヒノキ葉量の回復には長期間を要し、窒素吸収量の増加は限定的であることが示唆された。
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