植物が動きによって天敵から逃れるとはほとんど考えられてこなかったが、葉や枝は頻繁に風雨により動かされている。本課題では、少しの風でも葉が揺れる植物が受動的な動きにより植食者からの防御を行っているという仮説を、いろいろな角度から検証することを目的とした。 (1)ポプラの葉をワイヤで固定して、コントロールと比べて食害や植食性昆虫の個体数が変化するか野外で実験を行った。食葉性昆虫の発生が少なく葉の消失レベルに差はなかったが、固定した葉で統計的に有意ではなかったがアブラムシの数が多くなる傾向があった。 (2)葉が動きやすいポプラと葉が動きにくいマルバヤナギの葉上に4種のチョウ目幼虫を置き、扇風機で風を当て、落下傾向を調査した。ポプラの方がヤナギより幼虫が高頻度で落下した。また、おもに草本を摂食するハスモンヨトウで落下しやすく、樹木食のオオミズアオで落下しにくかった。植食性昆虫の側でも寄主植物の動きへの対抗適応が生じているのだろう。 (3)本州中部山地で、同所的に生育する葉が動きやすいヤマナラシと葉が動きにくいヤマネコヤナギで、植食性昆虫による食害レベルと植食性昆虫群集を比較調査した。とくに春季にはヤナギよりヤマナラシで食害レベルが低かった。 (4)近畿地方や中部山地などで、約70種のアブラムシが植物の動きに対してどのような反応をとるか野外でアブラムシのコロニーに振動を与える調査をおこなった。樹木食の種は落下しにくいが、ヒゲナガアブラムシ、オオアブラムシでは落下する場合が多かった。樹木から落下することを避けるのが適応的であるが、系統関係もアブラムシの行動に影響を与えることが示唆された。 (5)他に、風で葉が揺れやすい植物種の調査、風による葉の動きを移動分散に利用している昆虫の調査などもおこなった。本研究から、風による葉の動きは植食性昆虫による食害や植食性昆虫の行動に影響を与えることが示された。
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