研究課題/領域番号 |
25450237
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横山 朝哉 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (10359573)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リグニン / マンガン / 酸化 / 酸素 / 漂白 / パルプ |
研究実績の概要 |
本研究では、製紙用化学パルプ製造プロセスで主要な過程である酸素漂白において重大な問題である多糖類の分解を抑制し、選択的なリグニンの除去を可能とする新技術であるアルカリ性マンガン添加酸素および酸性マンガン逐次処理による漂白法を構築することを目的として、モデル化合物等を用いた本逐次漂白技術の基礎的知見の蓄積と最適反応条件の確立、および、パルプを用いたその有効性の確認を行っている。 前年度において、非フェノール性リグニンモデル化合物3,4-ジメトキシベンジルアルコール(A)の酸性下での二酸化マンガンによる酸化反応では、化合物Aの消失が擬一次反応と比較して徐々に加速されることを明らかにしたが、本年度ではまず、この二酸化マンガンの挙動について、詳しく検討を行った。その結果、二酸化マンガンを硫酸中でエージングを行ってから化合物Aとの反応に供することによって、この加速現象は観測されず、反応初期からエージングしない場合よりも速く反応が進行することを、明らかにした。これにより、前年度に観測された加速現象が、反応中における二酸化マンガンのエージングによることが、明らかとなった。 本逐次処理おいては、後段後に得られる二価のマンガンイオンをアルカリ性下における酸素酸化によって二酸化マンガン(四価マンガン)に再酸化し、これを再利用可能かどうか検討することが重要である。この検討を行った結果、二価マンガンイオンのアルカリ性下における酸素酸化では、反応を長時間行うこと、あるいは、酸素加圧化で行うことによっては完全な二酸化マンガンへの再酸化は達成されず、完全再酸化の60%程度しか再酸化が進行しないことが、明らかとなった。この現象は、三価に酸化され沈殿したマンガンの表面が二酸化マンガンにまで酸化され、これが被膜と同様の働きを行い、内部の酸化の進行を阻害すると考えると、合理的に説明可能である、と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、まず二酸化マンガンのリグニンに対する酸化反応に関する基礎的知見を得る目的で、二酸化マンガンによる様々なリグニンモデル化合物の酸化過程を詳しく解析した。しかし上記のように、二酸化マンガンの酸性下でのエージングや還元型二価マンガンイオンの再酸化等の無化学的要因が複雑であったため、これを専門としない研究代表者の予想よりも多少の時間を要した。また、リグニンモデル化合物の合成においても、研究代表者の予想よりも多少の時間を要した。このため、実際のパルプを用いた反応において、研究代表者の予想よりも解析の進行が多少遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに蓄積してきた基礎的知見を基に実際のパルプを用いて本逐次反応を行い、アルカリ性マンガン添加酸素および酸性マンガン逐次処理による漂白法の有効性を確認する。また、これまでの基礎的知見の蓄積の過程で特筆すべきものとして、リグニンβ-O-4結合部位のエリスロ型スレオ型構造における酸化反応速度の相違が、明らかとなった。これについて、二酸化マンガンによる酸化だけでなくその他の様々な酸化剤による酸化過程において検討する必要が生じたため、二酸化マンガン以外の酸化剤による酸化反応の検討も行う、多少の研究計画の変更も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
二酸化マンガンの酸性下でのエージングや還元型二価マンガンイオンの再酸化等の無化学的要因が複雑であったため、これを専門としない研究代表者の予想よりも多くの時間を要した。また、リグニンモデル化合物の合成においても、研究代表者の予想よりも多くの時間を要した。また、これまでの基礎的知見の蓄積の過程で特筆すべきものとして、リグニンβ-O-4結合部位のエリスロ型スレオ型構造における酸化反応速度の相違が明らかとなり、二酸化マンガンによる酸化だけでなくその他の様々な酸化剤による酸化過程において検討する必要が生じたため、予想よりも多くの時間を要した。
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次年度使用額の使用計画 |
各実験に使用する消耗品費(試薬・ガラス器具等)として50万円、成果発表のための旅費として60万円、パルプを用いた実験におけるパルプ粘度測定機器の購入に20万円、成果の学術論文投稿費用として10万円、成果発表のための学会参加費として10万円の使用を計画している。
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