研究課題/領域番号 |
25450238
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
山田 雅章 静岡大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20293615)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 木材接着 / ポリビニルアルコール / 酢酸ビニル樹脂エマルジョン / 架橋 / 耐水性 / 耐熱性 |
研究実績の概要 |
酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤(PVAc)の耐熱性や耐水性を改善するため、保護コロイドに自己架橋性をもつアセトアセチル化ポリビニルアルコール(AA化PVA)等を使用し接着剤の海島構造制御や、内部架橋性ビニルモノマーを酢酸ビニルモノマーに共重合するなどの分子設計による改良を行なう。平成26年度は保護コロイドに自己架橋性をもつAA化PVAを使用し、さらに酢酸ビニル樹脂を架橋させるために無機性官能基を有するビニルモノマー数種類を共重合し、無機性官能基部分で酢酸ビニル樹脂が架橋したエマルジョンを作製した。また、ナノクレイ添加による保護コロイドとの相互作用およびエマルジョン樹脂との結合による性能の向上を試みた。 その結果、耐熱性の向上については、より反応点の多い架橋性モノマーを共重合することで、80°Cにおける弾性率および架橋密度が上昇することが解った。また充填剤については、親水性モンモリロナイトを使用することでPVAとの相互作用が生じ、高温域における弾性率や80°Cにおける耐熱接着強さが上昇する傾向が見られた。 耐水性の向上については、AA化PVAを保護コロイドとして使用することで接着層の吸水率は抑えられ、また水溶出率も一般PVAを使用した場合の半分ほどに抑えられることが解った。さらに水に不溶である炭酸カルシウムを充填剤に使用することで、接着層への吸水を抑えられることが示唆され、耐水接着強さは2 MPaを上回り、目標であったBSEN 204 2003 D3の規格値をクリアした。実際の製品化には造膜性等に改良が必要ではあるが、AA化PVAおよび炭酸カルシウムの使用により高い耐水性をもつEPVAcの開発が期待できることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
近年、特に欧州において高耐熱性・耐水性を有した一液形エマルジョン接着剤の需要が高まっている。そのため本研究では、保護コロイドに自己架橋性をもつアセトアセチル化ポリビニルアルコール等を使用し接着剤の海島構造を制御したり、酢酸ビニルモノマーに内部架橋性ビニルモノマーを共重合するなどの接着剤の分子設計による改良を行なったうえ、上記接着剤にモンモリロナイト等の充填剤を添加し相乗効果による耐水性および耐熱性の向上を図る。また、それらによる性能向上メカニズムの解明を行うことが目的である。本研究で行う高耐熱性・耐水性接着剤の開発は以下の三点である。1.PVAcの合成と相構造制御による検討、2.保護コロイドやエマルジョン樹脂の架橋による検討、3.ナノクレイ添加による検討 平成26年度は2.保護コロイドやエマルジョン樹脂の架橋による検討を中心に研究を行う予定であったが進捗が早く、3.ナノクレイ添加による検討のまでほぼ終了した。結果は研究実績の概要に記入したとおり、耐熱性の向上については、より反応点の多い架橋性モノマーを共重合することで、また充填剤については、親水性モンモリロナイトを使用することでPVAとの相互作用が生じ、耐熱接着強さが上昇することがわかった。耐水性の向上については、AA化PVAを保護コロイドとして使用し、炭酸カルシウムを充填剤に使用することで、接着層への吸水を抑えられることが示唆され、耐水接着強さは目標値である2 MPaを上回った。実際の製品化には造膜性等に改良が必要ではあるが、AA化PVAおよびCCの使用により高い耐水性をもつEPVAcの開発が期待できることがわかった。 このように当初の予定を超えて研究が進捗したため、「当初の計画以上に進展している」とした。26年度までの研究においてこれら3点の検討はほぼ終わったので、達成度は予定以上である。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は昨年度までの成果を踏まえて以下の検討を行う。平成26年度の研究において当初予定していた内容はほぼ終了したが、研究を進めていく中で新たな課題が見つかった。それは、今回用いたエマルジョンは耐熱性や耐水性を向上させるため、どうしてもガラス転移温度や最低造膜温度が高くなり、このままでは実用化が困難であることである。そこで平成27年度は接着剤の耐熱性・耐水性を維持したまま造膜性を向上させたエマルジョンについて検討する。すなわち、酢酸ビニル樹脂エマルジョンの保護コロイドであるPVAの量を、PVA/VAc =10/100、PVA/VAc =7/100とし、それぞれに造膜助剤を添加した計4種のEPVAcについて、フィルム物性や接着性能を測定する。保護コロイド量が耐水性にどのように影響を及ぼすのか、また造膜助剤の添加による耐水性の低下を保護コロイド量変化により抑えられるか否かを検討項目とする。 また、ここで使用する保護コロイドは今まで使用してきたものと同じAA化PVAを耐水性付与のために使用するが、AA化PVAを使用するとコストが高くなり、またエマルジョンの粘度が高くなるため高樹脂分化が難しいなどの問題がある。そこでこれらの問題をクリアするために、AA化PVA:一般PVA=1:1でブレンドしたブレンド系PVAを保護コロイドとして使用する。このブレンド系PVAが保護コロイドとしてのAA化PVAの性能を維持できるか、同量の保護コロイドを含むEPVAcであるA-1(AA化PVA使用)およびN-1(一般PVA使用)と比較しながら検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算については予定どおりの使用をしていたつもりであったが、本大学の会計システムのトラブルにより、一部の購入品について請求が二重に行われていたことがわかった。これは同一商品の入力が二重に行われており、会計システム上で二倍の金額を使っていたことになっていた。ただし納入は一回のみであったため、本人(山田雅章)はこれを知らず予算を使い切ったつもりでいた。年度末に会計担当者から連絡がきてこの事実が判明した。余剰金の179901円についてはそれらの項目の合計である。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は当初計画に加えて、予定になかったエマルジョンの造膜についての検討を行うので、余剰金はそちらにあてる予定である。
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