現在、セルロースナノファイバー(CNF)およびそれを利用した複合材料の研究が盛んに行われている。しかしながら、CNF作成および複合化工程において課題が多い。特にCNFは水系で作成されるため、プラスチック等との複合化の際には乾燥工程を要する。しかし通常の場合、含水したCNFを乾燥させるとCNF間の水分が蒸発し、凝集を発生する。この凝集が起こることで複合材料化した場合に物性に大きな悪影響を及ぼすとされる。以上を背景としてCNF表面を改質することで乾燥時やプラスチックとの混合時に生じる凝集を軽減させることを目的に、含水時のCNF表面にケイ酸系無機水和物を形成させる水熱処理手法を提案した。これまでに水熱処理温度および時間、さらにはセルロースに対するケイ酸カルシウム水和物の添加割合を変化させることによってCNFを核としてケイ酸カルシウム水和物が形成される条件を明らかにした。今年度はケイ酸カルシウム水和物によって表面処理されたCNFを実際に樹脂(プラスチック)に添加し、複合材料を作製して、その機械的特性の評価を行った。その結果、CNFを添加することでプラスチック単体に比べて、ある程度の向上は見られたが、添加量が少ない条件間では差がほとんど見られなかった。添加量が多い条件では、ケイ酸カルシウム水和物の結晶が形成されることによる曲げ強度および曲げ弾性率での向上が見られる等、一部条件ではCNFをケイ酸カルシウム水和物で表面改質することによる相乗効果が確認された。
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