研究課題/領域番号 |
25450240
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
今井 貴規 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (20252281)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ノルリグナン / 抽出成分 / 心材 / スギ / 重合 / オリゴマー |
研究実績の概要 |
樹木・木材の特性は、それらに含まれる化学成分に由来することがある。スギの場合、その耐久性や色調といった特性は、スギが生産し樹体内に蓄積しているノルリグナンと呼ばれる化合物そしてそれらが「二次的に」変化したものに左右されるとも言われる。これまでのところ、ノルリグナンの二次変化に関する知見は少ない。本研究では、この二次変化としてノルリグナンの重合を想定し、スギ材中にノルリグナン重合物・オリゴマーが存在するかどうか、またそれらの化学構造はどのようであるか、を明らかにすることを目的としている。平成26年度、以下の知見を得た。 1. 我々の一連の研究により、スギ材中にノルリグナンオリゴマーの存在が確認されている。これらの構造解析に向け、ノルリグナンオリゴマーモデル化合物の合成・構造解析に取り組んだ。すなわち、ノルリグナン単量体を酵素酸化重合させ、次いでサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、セミ分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、主要な重合生成物を単離精製した。天然界での種々環境(赤色正常材:中性、腐朽材:酸性、黒色異常材:アルカリ性)を再現するため、酵素反応の際のpHをpH 4,7,10の3とおりとした。その結果、合計3種類のノルリグナン二量体の単離構造決定を達成し、特にこの内の一つは、酸性条件で重合した時、優勢的に生成するものであった。したがって、pHに係るスギ材の性状がノルリグナン重合物の化学構造に影響を及ぼすことが示唆された。 2. スギ赤色正常材および黒色変色材について、ノルリグナンオリゴマーの半定量分析を行った。先ず、ノルリグナンオリゴマー画分の調製およびHPLC分離手順の確立を目指した。さらにHPLC、SECおよび質量分析により、赤色正常材に比べ、黒色異常材においてより重合が進んだノルリグナンオリゴマーの存在が示された。したがって、ノルリグナンの重合度の違いがスギ黒色化に関連する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の実績に続き、26年度にも別のノルリグナンモデルオリゴマーが新たに単離構造決定され、ノルリグナンの二次変化の多様性が示された。特に、pH重合条件による生成物の違いの確認さらにその特徴的化合物の構造決定を達成できたことは、当初の目標を上回っている。 本研究の応用的目標の一つとして、スギの材色(商品価値を左右する、赤:良、黒:悪)とノルリグナン二次変化との関連を明らかにすることを掲げている。平成26年度、林木育種センターよりスギ赤色正常材と黒色異常材それぞれ3個体ずつの提供を受け、これらを材料として実験を進めることができた。これは連携研究者との連携が機能した結果と言える。 平成27年度に向けた予備実験として、次の2項目についても実施した。すなわち、(1)ノルリグナンのスギ材中での存在状態として炭水化物との結合を想定し、ノルリグナンをグルコース他2種類の単糖の存在下にて重合し重合物生成の挙動を調査した、(2)スギ材他数種類木材をDART(Direct Analysis in Real Time)-質量(MS;マス)分析した結果、スギ材に特徴的なマススペクトルが得られた。したがって、(1)(2)について、平成27年度調査項目として見通しを立てることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.平成25年度に単離されたノルリグナン三量体のうち、構造解析途中のものについては、それらの化学構造を決定する。 2.平成25、26年度の合成・単離手順に倣い、新規ノルリグナンオリゴマーの単離およびそれらの構造解析に取り組む。 3.平成26年度に考案したノルリグナンオリゴマー画分の調製手順ならびにそのHPLC分析条件をHPLC-MS分析に向けて改良し、これにより例えば、スギ赤色正常材および黒色変色について、ノルリグナンオリゴマーの種類・組成に違いがあるかどうかを調査する。 4.ノルリグナンをグルコース等の単糖やセルロース等の多糖の存在下にてモデル的に重合し、重合物生成の挙動や生成物の構造の解析を目指す。これにより、ノルリグナンのスギ材中の存在状態(ノルリグナンと細胞壁多糖の結合)に関して、知見を得る。 5.スギ材をDART-MS分析し、材中のノルリグナンオリゴマーの直接検出が可能かどうか検討する。本分析について、島津サイエンス社との調整をさらに進める。
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