研究課題/領域番号 |
25450243
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
巽 大輔 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60293908)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | セルロース / ゲル / 分子鎖配向 / 架橋密度 / 光学異方性 / レオロジー / 小角散乱 |
研究概要 |
環境適合型かつ再生可能資源であるセルロースを機能材料として利用するために、我々が開発したゲル化手法、すなわちセルロースの塩化リチウム/N,N-ジメチルアセトアミド溶液をイオン交換樹脂と接触させるという簡単な手段を用いて、透明なセルロースゲルを得た。溶液に対して異なる方向からイオン交換樹脂を接触させることで、分子鎖の配向の程度およびその方向が異なるゲルを得た。 このゲル生成のメカニズムを明らかにする目的で、まずは本手法で得られたセルロースゲルの構造および物性を測定し、それらの相関について検討した。まず、ゲルをイオン交換樹脂に近い部分(B1)、イオン交換樹脂から遠い部分(B3)、その間の部分(B2)で切り分け、それぞれレオロジー測定を行った。すべてのゲルで、貯蔵弾性率G’が周波数に依存しないゲルに典型的な挙動を示した。また、G’の値はB2 > B1 > B3となった。この結果から、ゲルの中央部分は他の部位に比べて密な架橋構造をとっていることがわかった。 次に、ゲルの内部の構造をより詳細に検討するため、各部位に対してそれぞれ小角X線散乱測定を行った。得られた散乱像からゲルの絡み合い相関長Ξを求めるため、Ornstein-Zernike式でフィッティングを行った。その結果、単位体積当たりの架橋点の個数νをΞの3乗の逆数とおいて理論的に求められる弾性率G’ = νkT(kはボルツマン定数、Tは絶対温度)は、レオロジー測定の結果と同様の傾向を示し、中央部の値が最も大きかった。一方、ゲル中に残留した塩の質量を求めたところ、B1 < B2 < B3の順となった。すなわち、ゲルの中央部は3つの部位の中で最も高分子密度が高いものの、残留している塩のため架橋に関与しない高分子鎖も存在する可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的であった、分子鎖の配向の程度およびその方向が異なるゲルの調製、そのレオロジー測定および小角X線散乱測定を実施することができた。またそれにより、ゲルの架橋密度が高い部分を明らかにすることができた。いずれの測定を用いた場合でも同じ結果が得られたので、その信頼性は高く、また今後いずれか一方の測定でも架橋密度を求めることができると考えられる。 ゲルの光学異方性は偏光顕微鏡による観察を用いた。今後は、目的のひとつとして挙げていた「分光光度計を用いた複屈折の測定」に挑戦したい。
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今後の研究の推進方策 |
当初は、最終年度の予定としていた「高分子材料を変える」あるいは「溶媒を変える」ことによるゲル形成の変化についての研究を早めに推進したい。これは、ゲル形成のメカニズムを理解するには、現象を普遍的にとらえる必要があるからである。普遍的にゲル化の現象をとらえたのちに、メカニズムの理論的究明へと進むこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初見積もっていた謝金・人件費を用いなかったため。 次年度使用額がそれほど大きな額ではないので、翌年度分として請求した助成金と合わせて通常通り物品費等に使用する。
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