研究実績の概要 |
これまでの研究では、セルロース/塩化リチウム・N,N-ジメチルアセトアミド溶液をイオン交換樹脂に触れさせて静置しておくという容易かつ低エネルギーの手法で、分子鎖が配向した光学異方性ゲルを調製することができた。しかし、この方法で得られる光学異方性ゲルは、ゲル化および分子鎖が配向するメカニズムが詳しく分かっていない。そこで、セルロースの溶媒としてより単純な系である水酸化ナトリウム水溶液を用いた。また、イオン交換樹脂を用いた配向ゲル調製に加えて、イオン交換膜を用いた電圧印加による溶媒からのイオン除去によっても、配向ゲル調製を試みた。今回は、これら2つの手法によって得られた配向ゲルのネットワーク構造を小角X線散乱測定によって検討した。 イオン交換樹脂を用いた手法と電圧を印加する手法のどちらにおいても配向ゲルが得られた。これらのゲルの偏光顕微鏡観察により、濃度3 wt%の溶液から得られたゲルでは、セルロース分子鎖がイオン交換樹脂面、またはイオン交換膜面に平行に配向することが示された。小角X線散乱測定では、得られたゲルのネットワーク構造を検討した。得られた散乱像を、Debye-Buche の式を用いてフィッティングすることにより、サンプル中の相分離の相関長を求めた。これは、配向したエレメントに特徴的な長さとみなせ、8~11 nmのオーダーであった。また、散乱データをKratky plotsにて示した結果、配向ゲルに凝集が存在し、そのスケールは20~30 nmであることが示された。これは、棒状粒子の断面Guinierの式を用いたフィッティングにより得られた断面半径とおよそ一致した。これらの結果から、配向ゲルは棒状のエレメントが並んだドメインを有することが示唆された。
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