研究課題
渦鞭毛藻Dinophysis属の中には下痢生貝毒を産生し、二枚貝類を毒化させる有毒種がいることが知られている。それらの有毒種の中でD. acuminataやD. fortiiをはじめとする混合栄養性種では、これまでの培養実験により、いずれの種においても繊毛虫Mesodinium rubrumを餌としていることが明らかにされた。しかし、自然界においては、Dinophyisis属とM. rubrumとの出現関係について調べられた例はほとんどない。そこで、本研究課題では、高頻度の現場調査を行うとともに、現場から得られたDinophysis属細胞の食胞内に残存する遺伝子を解析して餌生物の特定を試みる。これらにより餌生物との関係からDinophysis属の発生機構を解明することを目的とする。これまで三重県津市白塚漁港内に設けた調査点において、冬季はほぼ隔週で、春季から秋季にかけては基本的に週一回の頻度で採水調査を行った。得られた海水からD. acuminataを単離し、細胞内の食胞に残存する餌生物の遺伝子を、制限酵素を用いた処理方法で抽出・解析したところ、M. rubrumの遺伝子が検出された。さらに現場に出現した従属栄養性の有毒種であるD. rotundataの食胞中の遺伝子解析も同様の方法で行ったところ、M. rubrumの他に数種の繊毛虫の遺伝子が検出された。これらは、Dinophysis属の餌生物が現場で明らかになった初めての結果となる。また試水の検鏡により、D. acuminataならびにD. rotundataと、それぞれ食胞中の遺伝子解析の結果明らかとなった餌生物との間の数的増減関係を時系列で調べたところ、どちらのDinophysis属においても餌生物との間には確かに捕食ー被捕食の動的関係があることが示唆された。このことは、これらDinophysis属2種の出現はそれら判明した餌生物に依存するところが大きいことを示している。
1: 当初の計画以上に進展している
現場調査では天候に恵まれ、予想以上の数のサンプルを採集でき、顕微鏡観察も順調に行われた。また、Dinophysis属の細胞内食胞中に残存する餌生物の遺伝子抽出と解析を行う方法がほぼ確立された。
これまで行ってきた現場における高頻度採水調査を継続して行い、Dinophysis属と餌となる繊毛虫の出現関係をより詳細に観察する。さらに、今後は現場水域から食胞を持つDinophyisis属細胞をできるだけ多く単離して、食胞中の遺伝子を解析することにより、餌生物の多様性についても明らかにする。なお、平成27年度後半においては、それまでに得られたデータを総合的に取りまとめ、餌生物との関係からDinophysis属の発生機構を解明する予定である。
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Journal of Plankton Research
巻: 36 ページ: 1333-1343
10.1093/plankt/fbu048
藻類
巻: 62 ページ: 79-87