近年の我が国沿岸で拡大する藻場の衰退・消失(磯焼け)と水温上昇との因果関係を明らかにし、温暖化による藻場生態系への影響評価・予測に資するため研究を実施した。本研究では、藻場が残存する瀬戸内海と、藻場が大きく変貌しつつある黒潮沿岸域をつなぐ海域(豊後水道)にみられる水温勾配に着目し、野外調査・実験を通じて、藻場の水温変動への応答とその機構解明を試みた。平成25年度および26年度には、豊後水道東部(宇和海)で計13の調査点を設け、潜水調査を実施した。その結果、1)宇和海北部海域-温帯性ホンダワラ類や温帯性コンブ目藻類のクロメの藻場、中部海域‐マクサ等小型海藻類中心の藻場、南部海域-基本的に磯焼けであるが浅所に熱帯性ホンダワラ類ヒイラギモクの藻場、とわずかな地理的距離(30㎞)の間で藻場の様相が大きく変貌すること、2)同海域では、1990年代初頭と比較し、温帯性ホンダワラ類やクロメの南限が大幅に後退する一方で、ヒイラギモクの分布が拡大したこと、3)過去30年の間に宇和海全域にわたり1~2℃の水温上昇があり特に冬季に著しかったこと、等を明らかにした。これらの藻場の海藻の潜在的生産力と水温の関係を明らかにするために、平成26年度および27年度に、瀬戸内海から宇和海にかけての計6地点で野外実験を行った。南北の6地点間の水温差は夏季はほぼ無く、冬季は最大で5℃であった。藻体をカゴに収容し、植食性の動物の採食圧から防護した場合、温帯性ホンダワラ類やクロメの生産力は春季~秋季は6地点間で差がなく、一方冬季は水温が最も高く、本来これらの藻場が分布しない宇和海南部で最も高かった。一方、藻体を採食圧から防護しない場合は、宇和海南部では魚類による食害により消失した。この結果から、藻場の変化は水温上昇を背景とした動物による採食圧の増加(トップダウンの効果)により引き起こされていることが明らかとなった。
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