研究課題/領域番号 |
25450270
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒木 真理 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (00568800)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ウナギ / レプトセファルス / 変態 / 浸透圧調節 / 骨格形成 |
研究実績の概要 |
ウナギはレプトセファルスからシラスウナギに変態する一連の過程の中で海水から淡水へのその生息環境を移行する。本研究では異なる塩分環境におけるニホンウナギのレプトセファルスの浸透圧調節機能を明らかにすることを目的とした。先行研究で飼育環境下のレプトセファルスの成長率が高いと報告されている50%希釈海水と天然環境と同じ100%海水にレプトセファルスをそれぞれ馴致し、生残率および体表塩類細胞の機能形態を調べた。実験期間中に死亡する個体はほとんどなく、レプトセファルスはいずれの塩分環境にも適応していることがわかった。50%希釈海水のレプトセファルスの体液浸透圧は100%海水の個体に比べてやや低い値を示した。Na+/K+-ATPaseに特異的な抗体を用いて、whole-mount免疫染色で体表塩類細胞の分布密度を調べたところ、塩分濃度による有意差はなく、体表全体に分布していた。各塩類細胞は上皮細胞の境界部に位置し、頂端膜を介して外部環境と接していた。蛍光2重免疫染色を施したところ、レプトセファルスの体表塩類細胞の頂端膜にはNHE3とCFTR、側底膜にはNKCC1の免疫反応がそれぞれ観察され、体表塩類細胞はこれらのイオン輸送タンパクを用いて塩類を排出することが示唆された。走査型および透過型電子顕微鏡を用いて塩類細胞を観察したところ、開口部表面は微柔毛様の構造を呈し若干突出しており、塩分環境による表面積の違いは認められなかった。しかし、100%海水のレプトセファルスの塩類細胞は、50%希釈海水の個体と比べて大型のミトコンドリアと発達した管状構造をもっていた。以上の結果から、ウナギのレプトセファルスはいずれの塩分環境においても体表塩類細胞が体内のイオンバランスを保っていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はウナギのレプトセファルスの浸透圧調節機能について、異なる塩分環境におけるレプトセファルスの生残率および体表に存在する塩類細胞の機能形態学的特性を明らかにした。本研究の結果はニホンウナギの人工種苗生産技術研究の現場において塩分環境が50%希釈海水でもイオンバランスを保つ塩類細胞が十分に機能することを支持するもので、ニホンウナギの完全養殖に向けた今後の最適な飼育条件の検討に役立つ知見と考えられる。また、昨年実施したレプトセファルス体表塩類細胞と黄ウナギの鰓塩類細胞の機能形態の比較と、ウナギの変態に伴う甲状腺組織の変化の結果は2報の原著論文としてとりまとめ、国際学術誌に発表した。現在は飼育環境の水流がウナギ仔稚魚の形態と骨格形成に及ぼす影響に関する実験を行っており、概ね研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ニホンウナギの人工種苗生産技術研究の現場において、仔稚魚期から脊椎骨異常がたびたび観察される。脊椎骨に異常を持つ個体は摂餌能力が低下するばかりか、重篤な場合は死亡に至る。脊椎骨異常の生じる原因として、ビタミン不足や水温、水流などが考えられているものの、飼育水槽の水流がウナギの形態異常や脊椎骨に及ぼす影響は明らかになっていない。そこで、硬骨化が完了するシラスウナギの脊椎骨に及ぼす水流の影響を検討するため、異なる流速環境下で人工孵化したウナギ仔魚をシラスウナギに変態するまで飼育し、その生残率、成長率、骨格形成過程について詳細に調べていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属機関と試料の提供を受けている研究所間を往復する回数が計画より少なく、また研究成果公表を行う学会開催地が所属機関に比較的近い場所であったために旅費による支出が予算よりやや少額となったが、本研究に必要なニホンウナギ仔稚魚については適切に固定された試料の提供をまとめて受けているため研究の進捗状況に問題はない。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、人工孵化したニホンウナギ仔稚魚を飼育する際の水流が各発育段階における生残や成長、形態に及ぼす影響を調べるため、異なる流速環境下でレプトセファルスの飼育実験を行い、各発育段階における最適な水流条件を検討する。これらの実験および解析に必要な物品費および所属機関と飼育施設間の旅費に使用する予定である。また、本研究により得られた成果を国内外における学会・シンポジムで発表するための旅費および論文投稿費として使用する。
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