本研究ではウイルス感染魚における鰓黒点の出現経過の観察,鰓黒点の組織学的検討および鰓黒点の単離とその性状解析等を行った。 2つのウイルス病,ウイルス性出血性敗血症とウイルス性腹水症,を対象にして鰓黒点の出現を実験的に再現し,鰓黒色の出現経過を観察した。組織学的検討は定法に従い鰓のパラフィン切片を作製後,ヘマトキシリン・エオシン染色およびシュモール反応を施し,光学顕微鏡による観察,ならびに鰓弁の超薄切片を作製後,電子顕微鏡による超微形態学的観察を行った。鰓細胞は既報の上皮組織内白血球分離法を一部改変した方法を用いて分離し,フローサイトメトリーにより解析するとともに,細胞懸濁液のパーコール密度勾配遠心による黒点の分離に供試した。分離した鰓細胞と黒点は塗抹標本を作製し,各種の細胞染色を施して観察した。 いずれの疾病においても培養した原因ウイルスを実験感染させた魚において,鰓黒点の出現を再現することができた。また,実験感染魚の経時的な観察結果から,黒点の出現量は生存魚より死亡魚の方が多いこと,黒点は死亡に先行して出現すること,および症状の回復と共に消失していくことが分かった。光顕観察の結果,黒点と思われる顆粒の集塊が二次鰓弁の毛細血管内に多数確認され,シュモール反応に陽性を示したことからその構成成分はメラニンの可能性が高いと考えられた。電顕観察の結果,黒点は高電子密度の細かい粒子から構成され,薄い膜状構造物に内包されていた。分離した鰓細胞の塗抹標本内では多型性を示す黒色顆粒の集塊が確認できた。フローサイトメトリー解析の結果,健康魚と病魚の鰓細胞のサイトグラムに大きな違いは見られなかった。分離した黒点は,PI染色とCFSE染色において死細胞と生細胞の特異蛍光を発しなかった。以上の結果から,鰓黒点の出現はウイルス感染によって誘導されるメラニン顆粒の形成と密接に関わっていると推察された。
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