研究課題
アユ釣り解禁に伴う生息環境の変化がアユの冷水病発症に及ぼす影響を検討するため,種苗アユの放流が行われている多摩川水系において,冷水病の保菌調査,石面付着生物の種組成分析,および安定同位体比分析による摂餌履歴の推定を行った.種苗放流アユの保菌検査を実施した結果,高い保菌率で原因菌が検出されたことから,種苗放流が冷水病の主要な感染経路になっていたことが示唆された.アユ釣りの盛んな支流地点における採捕アユの保菌率と発症率は,アユ釣り解禁前の6月上旬から解禁後の6月中・下旬にかけて明瞭に上昇していた.アユ釣りの盛んな支流で採集されたアユは,本流中・下流域のアユの同位体比より高いδ13C値(-18.0~-11.0‰)と低いδ15N値(4.2~15.1‰)で特徴付けられた.このうち,δ13Cが-18.3~-16.6‰,δ15Nが12.1~15.1‰のグループは種苗放流アユの同位体比分布とほぼ一致していたのに対し,δ13Cが-15.4~-11.0‰,δ15Nが4.2~10.7‰のグループは支流の有機物と無脊椎動物の同位体比分布に近かった.前者は種苗施設の摂餌環境,後者は支流の摂餌環境を反映していたと考えられる.支流で採捕された冷水病発症アユには,どちらの同位体比分布のグループも含まれていたことから,種苗放流アユは放流後まもなく,支流の摂餌環境になじむ前の段階で既に罹患していたことが示唆された.また,アユの主要な餌生物と考えられている藍藻類のHomoeothrix janthinaは,6月上旬から8月上旬にかけて調査地点の石面付着有機物に豊富に含まれていたことから,アユの摂餌環境には際だった劣化は起きていなかったことが示唆された.冷水病菌を保菌した種苗アユは,生息場所の摂餌環境に関わらず,放流後まもない時期のストレスで発症していると考えられる.
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