最終的な目標は健康な仔稚魚を高い生残率で生産するための飼育水環境を確立することである。本年度はGreen Water(微細藻類)を利用した種苗生産現場において、仔稚魚期における養殖マダイの消化管内細菌叢と餌飼料および飼育水の細菌叢の関係について調べた。対象としたのは秋季に受精卵を収容したマダイの約1ヶ月間の仔稚魚である。養殖1ラウンド目 (1R) と2ラウンド目 (2R) の2期間で、マダイ仔稚魚、餌飼料そして飼育水を採取した。細菌叢の解析には、多様性解析の一種であるARISA (Automated ribosomal intergenic spacer analysis) 法を用いた。仔稚魚とあわせて、飼育水と餌飼料も採取した。特徴的なピークについてはクローニング後、塩基配列を取得した。その結果、2R目において顕著であったが、餌飼料と初期消化管内の細菌叢は類似性が高くなっていた。一方で、後期の消化管内では、餌飼料や飼育水とは異なる細菌叢を形成していた。興味深いのは、マダイの消化管内細菌群にSulfitobacter sp.に近縁な細菌種が存在していた点である。本属細菌はナンノクロロプシス(ナノクロ)のGreen Waterに大量に存在し、魚病細菌Vibrio anguillarum(悪玉菌)の増殖を特異的に抑制する善玉菌である。Green Waterに由来する可能性が高い本属細菌が、仔稚魚期におけるマダイの消化管内に定着し、抗病原菌として機能しているのかもしれない。 ナノクロ以外の微細藻類として、悪玉菌フリーにできた珪藻Chaetoceros gracilisoのGreen Water効果を調べたところ、その効果は認められなかった。悪玉菌フリーの珪藻と上述の善玉菌(ナノクロ由来)と悪玉菌を共培養した場合、悪玉菌の増殖が少し抑えられたが、その効果はナノクロの場合ほどではなかった。様々な細菌が共存する通常の珪藻培養液には悪玉菌の増殖を抑えるGreen Water効果が認められたことから、微細藻類の種類に応じて共存する善玉菌の種類も変化する可能性が高い。
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