研究課題
本研究は、サケ・マス類の生活史の中で死亡率が最も高いとされる海洋生活初期におけるサケとカラフトマスの成長率を生理学的および生態学的手法を用いて評価し、両種の生残機構に関する新たな知見を得ることを目的とした。平成25年度から2ヵ年にわたり、室内実験によりサケ・マス稚魚の成長率の指標(筋肉のRNA/DNA比や血中インスリン様成長因子IGF-I量など)の有効性を検討した。また、野外では網走川の河口および沿岸で5月中旬から7月上旬にかけてサケ・マス稚魚の採集を行い、採集された稚魚の分布と成長、血中IGF-I量を測定した。室内実験では血中IGF-I量がサケおよびカラフトマス稚魚の成長率を最もよく反映することが確認され、成長率の指標として有効であることが確認された。野外調査ではサケ・マスの稚魚の分布は水温の影響を強く受け、低水温(<8℃)時には稚魚は陸寄りに、高水温(>8℃)時には沖合に広く分布する傾向がみられた。採集されたサケおよびカラフトマス稚魚の耳石輪紋分析の結果、サケは5月中下旬、カラフトマスは4月下旬から5月下旬を中心に降海しているものと推定され、この時期は網走川におけるサケやカラフトマスの放流時期と一致した。また、降海日から採捕日(5月下旬あるいは6月上旬)までの日間成長率を推定することもできた。最終年である平成27年度には、成長率の最もよい指標となる血中IGF-I量を用い、検体数を前年までの1箇所8尾から1箇所30尾に増やして、河川、河口、沿岸で採集した稚魚を分析した。その結果、河川から海に下ったばかりの稚魚のIGF-I量の数値が低い傾向がみられ、沖合に分布する稚魚では数値が高い結果が得られた。これらのことから、降海直後の稚魚は海水適応の際に成長率が一時的に低下しており、この時期がサケ・マス稚魚の生残率に影響する時期である可能性が示唆された。
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