研究課題/領域番号 |
25450307
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
末武 弘章 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (00334326)
|
研究分担者 |
宮台 俊明 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (20157663)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ワクチン / 養殖 / トラフグ / 免疫学 |
研究概要 |
養殖魚の病害対策として用いられるワクチンは注射ワクチンが主流であり、日本ではほとんどが魚の腹腔内に投与するよう定められている。これにより、魚は獲得免疫系を発動し、病原体に対する免疫を獲得するが、腹腔内ワクチンがどのように獲得免疫を誘導するのかという根本的な部分が不明である。 昨年度は腹腔内白血球がどのような細胞から構成されているのかを、ゲノム情報が公開され、免疫関連遺伝子の情報が蓄積しているトラフグを材料にして解析した。トラフグを開腹し、腹腔内の白血球を回収した。まず、得られた細胞について、細胞塗抹標本を作製してギムザ染色による細胞染色を行った。また、フローサイトメトリー(FCM)で細胞数や細胞種を解析したところ、トラフグ腹腔ではリンパ球が最も大きい細胞集団であり、次に大きいのがマクロファージ集団であった。これらのことから、この2つの細胞集団が腹腔の獲得免疫活性化に関与していると考えた。そこで、さらに、当研究室で作製した抗トラフグ免疫グロブリンM(IgM)抗体を利用したFCMを行ったところ、リンパ球の多くがIgM陽性細胞であったことから、トラフグ腹腔ではIgM陽性B細胞が主要な細胞集団であることが明らかになった。 ワクチンは可溶性成分と不溶性成分の両方を含んでおり、また、可溶性抗原と不溶性の粒子状抗原では運ばれ方が異なることが示唆されている。昨年度は不溶性の粒子状抗原が腹腔内細胞にどのように取り込まれるかを調べた。不溶性の異物を腹腔に投与したところ、マクロファージだけではなく、IgM陽性B細胞に取り込まれていることが明らかになった。これまで、腹腔に投与された抗原はマクロファージや好中球に取り込まれると考えられていたことから、新たに腹腔における抗原取り込みにB細胞が関与していることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度においては腹腔内の細胞組成を明らかにすることができ、これまで考えられていた以上に腹腔におけるリンパ球の役割が大きいことを示唆するデータが得られた。リンパ球は獲得免疫系を担う中心となる細胞であることから、腹腔においてリンパ球を中心とした獲得免疫システムの存在が示唆される。また、その中でもIgM陽性B細胞が中心となっていることを明らかにすることができた。さらに、この細胞が抗原の取り込みにも関わっていることを示すことができ、初年度のうちに大きな方向性を示すデータが得られていることから、概ね順調であると判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度までに腹腔内ではIgM陽性B細胞が最も多い細胞集団であることを明らかにした。本年度はこの細胞がどのようにして腹腔に集積するのかを明らかにする。ここでは、哺乳類でB細胞の遊走を促進する分子として知られるケモカインCXCL13とその受容体として知られているCXCR5に着目する。哺乳類と同様にB細胞の遊走にこのシステムが関与するならば、腹腔のIgM陽性B細胞はCXCR5を発現していると考えられるため、これをRT-PCRで調べる。さらに、そのリガンドであるCXCL13は腹腔内のどこかで産生されていると考えられるため、腸管膜や腹腔内の細胞などでCXCL13が発現しているかをRT-PCRで調べる。さらに、これらが明らかになったのち、CXCL13とCXCR5が魚類でもリガンドと受容体の関係が成立していることを組換え体を用いた遊走実験やFCMによる結合実験で明らかにする。また、本年度は可溶性抗原が腹腔内細胞にどのように取り込まれるかを調べる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
昨年度には、トラフグ飼育のための餌やりや水槽掃除などの人件費・謝金を見込んでいたが、飼育数が少なく人手が足りたためこの費用を使用しなかったためである。 本年度は、飼育尾数を増やして実験を行うことを予定しており、そのための人件費・謝金を例年より多く使用することが見込まれる。さらに、細胞生物学的実験が増えるため、この技術を持つ研究員の雇用を予定している。そのため、消耗品と人件費が主な使用種目になる予定である。
|