研究課題/領域番号 |
25450318
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
山崎 亮一 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10305906)
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研究分担者 |
野見山 敏雄 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20242240)
新井 祥穂 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (40345062)
細山 隆夫 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 北海道農業研究センター, 研究員 (50526944)
成田 拓未 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (50614260)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 近畿型 / 東北型 / 北海道 / 切り売り労賃 / 長野県上伊那地方 / 中山間地域 / 本源的蓄積 / 地域農業システム |
研究実績の概要 |
H26年度は、本研究課題と関わって、1.長野県上伊那地方の宮田村と飯島町、2.秋田県横手市雄物川地区、3.北海道当麻町において、地域労働市場、農業関係諸機関、農家を対象とした調査研究を継続した。このうち、上伊那地方を対象とした研究成果は、H27年3月に、1.星勉・山崎亮一編著『伊那谷の地域農業システム:宮田方式と飯島方式』としてとりまとめて、筑波書房より出版した。また、本研究課題全体と関わる理論的考察の成果については、H26年12月に、2.山崎亮一著『グローバリゼーション下の農業構造動態:本源的蓄積の諸類型』としてとりまとめて、御茶の水書房より出版したところである。 著作1においては、前年度の研究実績概要のところで提示した「近畿型中山間」の概念をさらに精緻なものにして展開した。ここで「近畿型」とは、青壮年男子農家労働力の農外兼業先に、従来「切り売り労賃」と呼ばれてきた不安定・低賃金な労働条件のもとにある単純労働の職場を層としては検出することができない地域のことである。別に言うならば、青壮年男子農家労働力の農外兼業先では、年功賃金体系のもとにある複雑労働の職場が、今や支配的となっている地域である。こういう農外労働市場の状況が、地域の農業構造の展開(農家階層分化)や、農業生産組織、地域農業システム(宮田方式、飯島方式)、農業生産の担い手像のあり方にどのように影響・反映しているかを考察したのがこの本である。 著作2ではベトナム、サブサハラアフリカ、日本を対象として、「本源的蓄積」の概念を用いながら、それぞれの地域の農業の展開を理論的に整理しようとしている。日本について述べるならば、1980年代を転換期としながら、日本経済は、原蓄期からポスト原蓄期へと移行したのであるが、そのことが農業政策や農業構造のあり方に影響・反映している状況を描写している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では「安定兼業」地域として長野県・宮田村の農家と農業関係機関を対象とした調査研究を行う予定であったが、調査地域を拡張して、宮田村とともに、そこに近接する飯島町においても農家と農業関係機関を対象とした調査研究を行っている。飯島町は宮田村とともに独創的な地域農業システムを有する自治体であり、世上、それぞれ、「飯島方式」「宮田方式」と並び称されている。これら町村の農業を対象とした調査研究は、「研究実績の概要」のところで既述のように、H27年3月に星勉・山崎亮一編著『伊那谷の地域農業システム:宮田方式と飯島方式』としてとりまとめて、筑波書房より出版しており、この点に関しては、研究は「当初の計画以上に進展している」と言えるかもしれない。また、本研究課題全体と関わる理論的考察の成果については、これも、「研究実績の概要」のところで既述のように、H26年12月に、(2)山崎亮一著『グローバリゼーション下の農業構造動態:本源的蓄積の諸類型』としてとりまとめて、科学研究費出版助成を得ながら、御茶の水書房より出版したところであり、この点についても、研究は「当初の計画以上に進展している」と言えるかもしれない。 他方で、「不安定兼業」地域を対象とした調査研究は当初予定していた北海道当麻町を対象とした調査研究の地に、秋田県横手市雄物川地区を対象とした調査研究としても取り組んでいる。この方面での研究成果は、今のところ、研究代表者が指導を行なっている博士課程院生の2015年日本農業経済学会個別報告である(曲木若葉「東北水田地帯における農家就業構造の変化と農業構造:秋田県旧雄物川町を事例に」)。 以上をふまえ、本研究課題の現在までの達成度を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は本研究課題の最終年度である。そこで、①既に「現在までの達成度」のところで述べたような2冊の刊行図書として研究成果を実現している「安定兼業地域」の長野県上伊那地方を対象とした調査研究、及び、理論研究のさらなる深化を行なう。②また、「不安定兼業地域」の秋田県横手市雄物川地区、及び、北海道当麻町を対象とした調査研究の成果を論文化する。③さらに、こういった研究成果を、シンポジウムなどを通じて社会に向けて発信してゆく予定である。 ①の上伊那地方における調査研究と関わっては、本年度は、調査対象地を、これまでの対象地から南方の中川村にさらに広げて、そこで、新規就農や養蜂業を対象とした調査研究を行う。中川村はニホンミツバチの一大拠点として有名であり、こうしたことが地域の雇用創出や6次産業化の展開にいかなる貢献をしているかを解明する。また、そこには10名程度の新規就農者がおり、それぞれ特徴的な取り組みを行なっているようである。また、現代資本制社会における資本の有機的構成高度化については、既に刊行図書の中で論じているが、それをさらに理論的・実証的に深化させるための研究を行なう予定である。②については、雄物川地区の調査結果を査読誌に投稿する予定である。③と関わっては、一つには、『伊那谷の地域農業システム』の内容をコンパクトにまとめて査読誌に投稿する他、その内容を報告するための現地報告会を、上伊那地方で開催する予定である。また、『グローバリゼーション下の農業構造動態』の内容を紹介するための研究会を農工大で開催する予定である。さらに、年度末には、最終年度の科研報告書を科研費を用いながら出版する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、最終年度である次年度は、総括とりまとめの年として位置づけられており、この点に注力する予定であった。その一方で、実際の研究の進展においては、過年度に、2冊の図書を刊行しながら本研究課題による理論的・実証的な研究成果を公表しており、「総括とりまとめ」としては既に一定の成果を出していると思量している。また、経済や農業を巡る新たな状況が足元で生起してきており、こういった点を視野に入れながら、新たな実態調査研究に取組む必要性が認識されてきている。そこで、次年度は、過年度に行なった「総括」的な研究成果をふまえながら、新たに、組織的な地域実態調査研究に取組む必要性が生じてきており、これを実施する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度は、研究代表者と分担研究者による、長野県上伊那郡中川村の農家を対象とした、集落悉皆調査研究を実施する予定である。中川村では、従来は、近隣の宮田村や飯島町とは異なり、地域農業システムを構築する動きはあまり見られなかったが、その一方で、近年は、耕作放棄地が増加する懸念から、地域農業を組織化する必要性が地元でも痛感されてきている。本調査研究は、村やJAに主導される地域農業組織化の動きを補助すべく、基礎的なデータを作成することを目的としている。また、本研究課題による一連の成果を公表するために地元でシンポジウムを開催する予定である。加えて、H27年度末には、本研究課題に研究成果をまとめた報告書を印刷する予定である。
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