本研究の目的は,農家家計のミクロデータを用いて,人的災害や自然災害が農家家計に及ぼす影響を実証的に検討することであった。具体的には,以下の3つの課題に取り組んだ。1つめとして,人的災害として昭和恐慌を取り上げ,人的災害が農家家計の生産性や資産所有に及ぼした影響や,人的災害に対する農家家計の脆弱性や復元(回復)力を検討した。2つめとして,昭和恐慌前後の期間をはさむ農家の生活記録データの電子化・整備を通じて,家計の現物所有,預金,負債,保険支出や公金などの動態を検討した。3つめとして,自然災害として東日本大震災を取り上げ,被災農家家計の被災前後の経営状況等を整理し,自然災害が農家家計に及ぼしたインパクトを検討した。 検討の結果,1つめの課題については,昭和恐慌発生後の1930年から1931年にかけて,農家家計のMalmquist生産性は他の期間にみられない急激な低下が生じたことや,人的災害である恐慌による集計的ショックに対する農家の脆弱性には経営規模層間で違いがあり,こうした違いが恐慌後の経営規模階層変動の契機として作用した可能性があることなどを明らかにした。2つめの課題については,生活記録の電子データベース化を図るとともに,昭和恐慌後に貨幣の現物所有,預金や保険支出のいずれについても減少するとともに,家計費の補填による消費平準化を目的として,借入を行う家計が増加したことなどを明らかにした。3つめの課題については,東日本大震災に起因する各家計の農業被害額の算出や農業共済が震災後の回復に果たした役割を検討するための分析フレームワークと研究基盤の構築を図るとともに,「経営状況復興定点調査」のパネルデータを構築した。ただし,パネルデータの分析と結果の最終的な導出は,今後の課題として残された。また,以上で得られた結果を学術集会での発表や学術雑誌への投稿を通じて,成果の一部を公表した。
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