日本は国内農業保護のコストを農産物価格に上乗せする形で家計に転嫁してきた。しかし、高度成長期以降に日本の家計は世帯規模が縮小して小型化し、調理技術も低下したため、食材を家庭で調理する「内食」の生産効率が低下して、食事の外部依存度が高まったと考えられる。このことは、家計が国内農業保護のコストを負担する余地が縮小したことを意味する。従来、日本の食料自給率が継続して低下した原因は供給サイドの問題として捉えられ、需要サイドの変化である家計の小型化や単身世帯の増加などがもたらす影響は看過されてきた。本研究の目的は、需要サイドの変容に焦点を当て、食料需要構造の全貌と今後の見通しを解明し、家計と国内農業が連携するための方策を提言することである。 本研究は平成27年度を最終年度とする3年間の研究であるが、「研究実施計画」に従って、初年度は主に研究枠組みの検討と分析手法の開発を行った。その結果、①需要分析の枠組みを拡張して、「日本経済の変動に対する調整として家計が変容し、その結果、日本の食料消費は構造的に変化した」という仮説を設けた。 2年目は実証分析を行った。そのため、②産業連関分析で国産農産物と輸入農産物に対する派生需要を推計した。その上で、③戦後における日本経済の変動を3期に分けて分析した結果、①の仮説が支持され、成果の一部を学会で発表した。 最終年度である平成27年度は、「産業連関表」が未公開で作業が遅れた②の平成23年分を分析し、同様の結論を得た。次に、家計と農業の連携による食料自給率の改善方策として比較静学による余剰分析を実施した。その結果、④家計と農家の双方に連携の誘因が存在するのは、国産農産物に対する需要曲線の上方シフトか、供給曲線の下方シフトに限定されるため、家計の生産効率が低下した現状では、国内農業の生産効率を改善する必要があることを指摘し、成果の一部を学会で発表した。
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