独自モデルのlinear approximate quadratic almost ideal demand system (LA/QUAIDS)にシフト変数と構造変化仮説を組み込んだ実証モデルを,月次の疑似パネルデータに適用した.分析の結果,原発事故による放射能汚染は,生鮮魚介から生鮮豚肉へシフトさせるような影響を家計需要に与えたことを明らかにした.放射能汚染に関する報道後,生鮮牛肉はより支出非弾力的に,生鮮魚介と生鮮豚肉はより支出弾力的になったこと,生鮮魚介需要の減少トレンドは消失し,生鮮豚肉需要の増加トレンドは減少トレンドに転換したこと,さらに,原発からの距離は生鮮魚介需要を減少させ,生鮮鶏肉需要を増加させるような効果をもつことを示した.一方,非補償・補償価格弾力性および代替弾力性には,統計的に有意な影響は認められなかった. 食料のように一般に購入頻度の高い非耐久財の需要分析では,多くの既存研究で用いられてきた年次,四半期次,あるいは月次データよりも,日次データを用いる方が現実の消費者行動をより正確に反映することができる.その際,価格や人口統計的変数などの日次データを利用できないという不利を克服するため,エンゲル曲線を対数2次型の状態空間モデルとして定式化し,カルマン・フィルターにより推定した.状態空間モデルは回帰モデルよりも柔軟性が高くデータの説明力に優れており,回帰モデルでは説明しきれない食料の支出比率の変動を捉えることができた. 大標本のミクロデータでは,支出の変動に対して価格の変動が相対的に不十分となるため,既存モデルでは,しばしば推定値が不安定となり,現実的な弾力性が得られない.本研究では,フレキシブルで積分可能な線形需要システムを新たに提示し,既存モデルでは推定が不安定または困難なビッグデータにおいて,現実的な弾力性推定値を安定して得られることを示した.
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