最終年の平成27年度は、これまでの事例調査の結果及び文献整理等を通じて、集落営農がコミュニティ・ビジネスに取り組む理論的整理とその現段階的モデルの整理を行った。 農村社会における住民の「生活互助(共助)」体制の維持が困難となり始めた90年代に集落営農は展開した。その組織化効果を発揮するには、兼業従事者等の出役者確保が不可欠となり、消防団、青年団等の既存の地域社会のインフォーマルな人的関係が活用された。さらに、集落営農を通じた集落全体の仲間意識や助け合い意識の向上に向けた諸活動が重視され、それは脆弱化した生活互助の強化に寄与した。しかし、2000年以降、集落営農法人化への政策転換に伴い「経営の論理」が強く求められた結果、これら活動は不採算部門のため維持継続が困難になり、その役割は、集落自治組織に期待されたが、高齢化した自治組織では困難なため、市町村の社会・福祉サービスの充実(公助)が強く求められた。だが、平成の市町村合併後の財政支出削減を理由に公共サービスの供給量や水準が大きく低下する中で、都市の縁辺部となった農村地域では、社会の維持が懸念される状況を生じた。経営の論理を重視する集落営農といえども、その存続は農村社会の維持が前提条件となる。加えて、農産物価格低下の中で、雇用者導入した集落営農は賃金等の確保が欠かせない。これが集落営農がコミュニティ・ビジネスに取り組む理論的背景である。集落営農におけるコミュニティ・ビジネスは、既存の農業生産との関連性が弱いほど事業の開始・継続に高い費用が伴う。この回避が不可欠である。現段階モデルとして、公共サービスの外部化を進める行政と連携し初期投資負担や財政的支援を受ける「公共サービス受託型」と、集落営農の既存の多角化事業や経営資源を有機的に結びつけることで事業実施に伴う費用を削減して事業展開を目指す「事業展開型」の二つに整理できる。
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