老朽化する農業生産基盤資本の影響を定量化するため、地域動学応用一般均衡(CGE)モデルを作成し、政策シミュレーション分析により、施設長寿命化を目的とするアセットマネジメント施策の効果を定量的に評価した。 地域動学CGEモデルは、9地域、46産業からなり、地域間の財・サービスの柔軟性のある取引をモデル化するとともに、実証分析で求めた農業生産基盤資本ストックが農業の総合的な生産性である全要素生産性に及ぼす影響を表す関数を実装した。政策シミュレーションでは、現状の公共投資水準が継続する場合、アセットマネジメント施策を導入した場合、さらに不足する投資を補完するため、農業生産者の負担か、あるいは、全産業の生産に対する課税負担の場合を想定して分析した。 分析の結果、①現状の公共投資水準では、老朽化する農業生産基盤資本を全て更新することが不可能であること、②施設の全面更新よりは部分的な補強・補修を中心とするアセットマネジメント施策の方が国民・地域経済的にも効果が高いものの、アセットマネジメント施策のみでは、老朽化する農業生産基盤施設全てをカバーすることができないこと、③不足する投資額を農業生産者の負担で実施するとGDPに対する負の影響を回避できる効果が最も高いものの、農業生産者の所得が大きく減少すること、④不足投資額を全産業に対する課税でまかなえば、GDPでみた効果は農業生産者負担の場合よりは低いものの、農業所得の減少を回避できることが明らかとなった。農業所得の減少は、担い手の減少により国内での農業生産の持続性を損なうことから、食料安全保障を勘案すれば、国民全体の理解の基に社会全体での負担を求めざるを得ないことが想定できる。国民の合意形成を図るため、本研究で開発したような地域動学CGEモデルによる定量的な影響の提示が有効かつ不可欠であると考えられる。
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