本研究では、障害者について、三障害(身体障害・知的障害・精神障害)に加えて、ホームレスや犯罪者の社会復帰、ハンセン病回復者、激甚災害被害者など、社会的に困難を抱える人々の社会包摂に関する調査・研究を行ってきた。その過程で、精神障害者の就労が最も困難を抱えていることが判った。また精神障害の発生には社会的要因が大きく関与しているため、精神障害者の「社会包摂」には、社会の側で、他の障害者に対する場合とは異なる配慮や仕組みが求められることも明らかとなった。 近年の脳科学研究の進展によって、精神障害の症状と脳の機能的不全との対応関係が、いくつかの症例については明らかになってきているものの、精神障害を生み出す社会的文脈を軽視することはできない。精神障害には社会的要因が大きく関わっていることは否定できないのである。このように、精神障害が社会関係にもとづくストレスなど、社会のあり方が直接的あるいは間接的に関与して発生している障害であると捉えると、この社会的要因は、精神障害を発生させる要因として重要であるばかりでなく、障害への対応(差別や隔離)を媒介として、その後の治療・社会復帰過程にも大きく関係している。社会的要因が大きく関与して発生した障害を、社会的対応・配慮によって解決しなればならない点に、精神障害特有の困難がある。障害者差別解消法などの法整備や行政主導の障害者就労促進は重要であるが、それが実施される社会的文脈の理解なしには、問題の本質的な解決は望めないのである。そのため2016年度は、地域社会で精神障害者を包摂してきた歴史と豊富な経験を有する海外(オランダとベルギー)での事例調査を実施した。
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