タイ国において、2012年に、貧困家計比率が都市部9%、農村部16%であり、2013年にジニ係数が0.465と大きく、現在、農村部に貧困家計が多数存在し、大きな所得格差が存在している。所得格差と貧困の原因を人的資本蓄積の差異に求め、平成25-26年度に次の成果を得た。すなわち、タイの中央統計局が実施した社会経済調査の個別結果表(1990-2006年と2007-2013年の2年毎)を用いて、ミンサー方程式を拡張した賃金所得関数を計測し、教育投資の収益率を推計した。この結果は、教育投資の効果、特に、農村部の女子高等教育の教育投資の効果が高いことを示すものであった。また、女子高等教育のトリートメント効果を組み込んだ賃金所得関数を計測し、女子高等教育の効果を確認した。 最終年度は、資本蓄積の差異をもたらす家計の消費・貯蓄行動を明らかにするために、各年の社会経済調査の個別結果表を用いて、社会経済調査の家計類型別に、貯蓄関数を計測した。なお、家計類型は、(1)自作農、(2)小作農、(3)企業家、(4)専門家、(5)農業労働者、および(6)その他労働者家計である。家計類型中、月平均所得が最低の農業労働者家計の恒常所得の限界貯蓄性向の推定値は、ほとんどの年に、統計的にゼロと有意差なく、貧困家計と位置づけられる農業労働者家計は、恒常所得仮説に従った消費・貯蓄行動を行っていることが明らかになった。そして、その一時所得の限界貯蓄性向が0.4と、家計類型中最小であり、資本蓄積が困難であることが明らかになった。加えて、2001年のタクシン政権以来、各政権の農村の短期の貧困政策は、農業労働者家計の消費・貯蓄行動パーターンに変化を与えるものでなかった。したがって、教育投資を中心とした長期の貧困対策が、タイの農村の貧困と所得格差の解決策であるという結論に至った。
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