研究課題
わが国では土地改良法で「環境との調和への配慮」が原則化されて以来,農業農村整備事業では多様な環境修復技術が導入されてきた.魚類の生息地保全に関するものでは,魚道,魚巣,置石等の環境配慮工法が実施され,一定の成果を挙げてきた.しかしこれらには,近年進展している生態水理学的知見が十分には活かされておらず,改善の余地が大きいという問題がある.本研究の目的は,農業用排水路における魚類生息環境の最適化手法を開発することである.具体的には,水路への粗石や魚巣の配置を事業後の水路・生態環境の予測に基づき決定するため,水理解析と最適化理論を融合した手法を提案する.これにより,十分な学術的裏づけのある環境配慮事業の設計が可能になり,有効な事業の再現性向上が期待できる.平成26年度は前年度に引き続き茨城県美浦村興津地区を流れて霞ヶ浦に至る農業用排水路にて,魚巣内外の多地点における瞬間流速の観測を行った.また,対象排水路の魚類の採捕と種の同定を行った.乱れエネルギー,乱れ度といった乱流特性を「魚巣内・周辺」と「魚巣外」にグループ分けして整理した.また,魚の推定消費エネルギー式を用い,魚巣の有効性の定量評価を行った.一年を通じて各グループの特性を調べた結果,両グループがいずれの指標を用いても有意に差があることがわかった.研究成果は学会で発表した.また,堆砂を考慮した水路流の数値解析モデルの適用可能性について検討した.
2: おおむね順調に進展している
排水路の魚巣の有る区間と無い区間において,複数地点での瞬間流速を記録した.これを継続的に行ったことで,魚巣が魚類に及ぼす影響を統計的に評価することができた.また,魚巣部では堆砂が多いことを踏まえ,堆砂を考慮できる既存の数値モデルの適用可能性の吟味を開始できた.
対象排水路における水位・流速観測を継続してデータの蓄積を図る.これらを元に水路流の数値解析モデルを用いた流れのシミュレーションを行う.環境配慮工の最適化モデルの定式化を行い,必要なプログラミングを行う.また,水路の水理環境の不確実変動を考慮した上で魚巣の最適配置を導くよう,確率論的最適化モデルへモデルを発展させる.最適化問題を解いて得られた知見を現場と比較し,環境配慮工法の改善法について考察する.研究成果は国内外の学会で口頭発表する.
国際学会での発表に伴う旅費を想定以上に抑制できたこと,論文投稿関連の出費が少なかったことが主な理由である.
未使用額は,排水路の水位の自動測定用である水位計と関連消耗品の購入にあてる.また調査の進み具合に応じて,成果発表旅費に使用する予定である.
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